システム開発プロジェクトが大炎上すると、昔なら、プロジェクト管理がずさんだったなどとして、ITベンダーがその責めを一手に受けなければならなかった。だが最近は、ベンダーがあえて裁判沙汰にすることで、実は客のほうに大きな非があることが判明することも増えてきた。良い傾向である。だが、客のIT部門には最終兵器がある。「我々はITの素人」という開き直りである。

 IT部門なのに自らを「ITの素人」と公言するのは自己矛盾しているようだが、実際のところ、多くのユーザー企業でIT部門の素人化は深刻になりつつある(関連記事:「IT部門は素人集団」という事実を知らない社長の大問題)。でも、素人であることと、「我々は素人」と開き直り、何の勉強も努力もせずITベンダーに丸投げするのとでは意味が違う。恐るべき職務怠慢である。

 ただ、「我々はITの素人」と公言すると良い点もある。無知をよいことに、「普通そんな無茶は言わないでしょ」というレベルの法外な要求ができる。無知は無恥でいられるのである。万が一、プロジェクトが失敗してしまったら、「相手が素人だと思って、ずさんな仕事をしたんだろ」とITベンダーを責め立て、補償させることも可能かもしれない。

 システム部長、あるいはCIO(最高情報責任者)らが「我々は素人」と言い出したのは2000年代前半、ちょうどIT部門の大規模なリストラが始まった頃だ。目の前のシステム運用保守で手一杯となったIT部門は最新の技術動向についていけなくなり、ITベンダーに対して「我々はもはやITの素人なので、ソリューション提案を出せ」と要求するようになったのだ。

 だが、要求するソリューションは相変わらず、ゼロからスクラッチ開発するシステムやアドオンしまくりのERP(統合基幹業務システム)のたぐい。私なんか「素人だったらパッケージソフトウエア(今ならクラウド)でも使っていろ」と思うのだが、それは嫌。ITベンダーも丸投げされると案件の規模が大きくなるので、客を甘やかしてホイホイ請け負った。で、プロジェクトが大炎上するなどの悲劇が繰り返されてきたわけだ。