「お客様の期待に応える」。SIerの経営幹部がよく口にする言葉だ。SIerに限らず企業の幹部なら誰でも言いそうなフレーズだが、御用聞き商売のSIerの幹部が言うのを聞くと「客の期待って何だ」とツッコミを入れたい衝動に駆られる。単に難クセをつけているかのようだが、そうではない。まともなマーケティングもせずに現場の技術者らに客の期待に応えさせるのは、トンデモナイ間違いなのだ。

 さらに言えば、SIerの幹部は「お客様に寄り添う」というフレーズも多用するようになった。これも最近、SIerに限らず日本企業の間ではやり言葉になっているが、SIerの幹部が口にすると気色が悪いことこの上ない。パッケージソフトウエア製品やクラウドサービスを自ら生み出そうとはせず、まるで濡れ落ち葉のように客にへばり付いて人月商売に明け暮れるSIerがこれ以上寄り添ってどうするのか。

 この2つのフレーズを合成すれば「お客様に寄り添って(これまで以上に)お客様の期待に応える」となる。うーん、現場の技術者にとっては悪夢のような事態だ。そもそも、どんなに客に寄り添おうが、どんなに客の期待に応えようが、客を満足させるのは不可能だ。それどころか客は不満を募らせる一方で、どんどんワガママになるだけだ。

 なぜか。それは、実際にSIerの幹部に「客の期待って何だ」とツッコミを入れればすぐに分かる。「…つまり…お客様の課題を解決することだ」との答えが返ってくるはずだ。そうすると、「客の課題を知らなければならない」となり、課題ならぬ客の要望をひたすら聞くという話になる。何の事はない。「お客様の期待に応える」とは御用聞きレベルを上げ、客のどんな要望も聞き入れることに他ならない。

 実は「お客様の期待に応える」のはこれだけではない。客の要望というか、ワガママを聞くだけ聞いてシステム開発に突入すると、プロジェクトが高い確率で炎上する。その際の「お客様の期待」とは「絶対に逃げない」ことだ。契約の範囲を超える客のワガママな要求の結果、プロジェクトが破綻し、技術者に理不尽なデスマーチを歩かせても、SIerは絶対に逃げない。実際「うちは絶対に逃げない」と胸を張るSIerの幹部はごろごろいる。