労働集約型のIT部門では開発プロジェクトを推進する人材の育成が欠かせない。その人材育成にCIOはどうかかわっていけばよいのか。長谷島氏は“あるもの”を共有することが重要だと指摘する。

 かつて大手企業のCIOと大手ITベンダーのトップが多数集まり提言をまとめる会合に参加したことがある。そのときの議題の1つに、IT業界における人材育成があった。その議論に参加して思ったことは「人材は育成するものではないのではないか」ということだ。

 人は仕事を通して自ら育っていくものである。そう考えるとIT現場の人材育成でCIOがすべきことは、人材を育てるのではなく、人材が育つ環境を作ることなのではないだろうか。

 ここでいう人材が育つ環境は、システム開発プロジェクトの場合であれば、IT部門のメンバーだけではなく、参画するITベンダーのメンバーにも同様に提供することが重要だ。ITベンダーに「優秀な人材を出して欲しい」とお願いしてもそう簡単には出てくるものではない。大切なのは人材が育つ環境を提供することによって、優秀な人材を得ていくという考え方だ。

 さらにその環境では、結果だけでなく、そこに至るプロセスやチャレンジを重視していくことが欠かせない。そういった環境を整えたプロジェクトで、終わったとき、参加したITベンダーのメンバーから「素晴らしいプロジェクトだった。もう一度一緒に仕事がしたい」という言葉を何度もいただいた。

 プロジェクトの進行中もメンバーたちは、モチベーションを高く維持していたと思うし、本人も成長を実感していたであろう。マネジメントにできることは、こういう結果をもたらす環境を提供することだと実感した。

 もちろんこういう環境をCIOが用意しても、メンバーが「育ててもらおう」と受け身でいるようでは役に立たない。本人が主体的に仕事を進めていかなくてはいけない。そうした責任感を持って自律的に仕事を進めていく人たちなら、自らを成長させることができるはずだ。

 自律的に成長しようという意識を持ったメンバーが集まるプロジェクトは、たとえ仕事が大変でも、ほのぼのとした温かい雰囲気が生まれてくるものだ。逆に、マネジメントがいたずらに結果だけを求め、メンバーたちも受け身で「言われたことだけやっていればいい」と考えるような現場はひどいもの。マイナスの相乗効果で寒々とした世界になってしまう。