競馬にはいくつかの戦法がある。逃げ切り、好位差し、まくり、最後方からの追い込みなどだ。逃げ切りは、スタートから先頭に立ってそのままゴールイン。好位差しは3番手くらいにつけて最後にサッと抜け出して勝つ。まくりは、前半は後方に控えレース中盤から外を回って一気に先頭に立ち、ゴールになだれ込む。そして追い込みは、ラストの直線まで一番後ろを走り、最後に爆発的にスパートしてゴボウ抜きという豪快な勝ち方だ。

 追い込みは、有名な競走馬でいうとディープインパクトやハープスターの戦法。この勝ち方は最高にカッコいいが、システム構築においては絶対にあり得ないマネジメントだ。

 システム構築における成功プロジェクトの割合には諸説あるが、3割程度といわれる。プロジェクトを成功させるための戦法はズバリ、「逃げ切り」に尽きる。感覚的には、成功プロジェクトの割合は、逃げ切りが75%、好位差しが20%、まくりが5%程度で、追い込みはゼロであろう。

 失敗プロジェクトのパターンは、スタートダッシュができず、出遅れて調子が上がらないまま時間が経過し、日に日に焦りを感じながらも有効な手を打てず、遅延が遅延を呼ぶ悪循環にはまっていく形が大半だ。プロジェクトのキックオフから約10%の時間、1年のプロジェクトなら1カ月、3カ月なら1週間のスタートダッシュが重要なのである。最初から10%のスケジュール遅延を抱えてしまうとそのリカバリーは非常に難しい。

 だが、このスタートダッシュもなかなか簡単ではない。それは開発者とユーザーの間にあるさまざまなギャップによって出足が鈍るからだ。

 例えば、相手がリーダーシップを執ってくれると考え、双方が「お見合い」をしてしまう。ユーザーは「ベンダーはシステム構築のプロだし、高い金を払っているのだから積極的にキックオフ会議を仕切ってくれるだろう」と思う。一方ベンダーは「スタートしたばかりで、ユーザーの社内状況が分からないし、出しゃばって客の意向に反してもよくない。まずはユーザーからの指示を待とう」と考える。こうして互いに動けず、1~2週間を無駄にする。