札幌デンタル・ラボラトリー(以下、SDL)は、「歯科技工工業の組織化」を目標に、故・関口清氏が札幌市で1968年(昭和43年)に創業した会社である。関口氏は急病により2004年に64歳で他界するが、関口氏の「夢」と「志」、そして「噛(か)める喜びをいつまでも」という熱い想いは、経営を引き継いだ代表取締役社長の山賀英司氏以下、社員の一人ひとりの胸に刻まれ、現在の発展につながっている(写真1)。

写真1●札幌デンタル・ラボラトリーの本社外観
写真1●札幌デンタル・ラボラトリーの本社外観

 SDLには110人超の社員が勤務するが、そのほとんどが歯科技工士である。歯科技工士は、歯科医院で虫歯などの治療に利用する「詰め物」や「かぶせもの」、そして「義歯」などを作る専門技術者だ。歯科技工士は全国に約3万4000人いるが、そのほとんどが個人事業主で6人以上の組織に属する比率はわずか約7%だという。

 このような業界構造においてSDLは、100人単位の歯科技工士を正社員として雇用している希少な企業である。同社は創業以来、「人材育成」「設備投資」「情報収集」の3項目に力を注いでいるほか、労働人口減少時代に対応する取り組みとして、2005年(平成17年)から、「女性歯科技工士の働きやすい環境づくり」を推進し、歯科技工士の女性比率が48%に達している。

 人材育成の専門知識を有する取締役もいる。風通しの良い組織風土と安心して働ける職場環境により離職率も低く、長期就業と計画的な技能向上プログラムが相まって各歯科技工士の技術力向上が実現されている。また、高い技術力を背景に歯科医院への実直な営業活動を行った結果、道内の3分の1に上る約1000軒の歯科医院と取引を行うまでに事業が拡大した。

 SDLはこうした実績をベースに歯科技工技術として先進領域となるCAD/CAMや3DプリンターといったITの利活用を積極的に推進。「システム共有による地域組織連携で、高品質、短納期、競争力強化を実現」したことにより、経済産業省主管の「攻めのIT経営中小企業百選」に選定された。この選定プロジェクトでは、2014年度から3年間にわたり、ITをビジネスに有効活用している中小企業100社を選定している。2015年度分に相当する「2016年 攻めのIT経営中小企業百選」でも全国の中小企業27社が選定されたが、SDLは北海道地区から選定された2社のうちの1社となった。

 この記事では「2016年 攻めのIT経営中小企業百選」への応募推薦者であるITコーディネータの熊坂和也氏(ビームオン 代表取締役)の視点で、SDLにおける攻めのIT経営の概要と、熊坂氏の支援によってSDLがWeb・メール環境を刷新し、IT経営の加速を実現した経緯について説明しよう(写真2)。

写真2●札幌デンタル・ラボラトリーの山賀英司氏(右)とビームオン 代表取締役の熊坂氏(左)
写真2●札幌デンタル・ラボラトリーの山賀英司氏(右)とビームオン 代表取締役の熊坂氏(左)
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