新聞販売店業界の経営環境は大きく様変わりしつつある。大手新聞社は地域ごとに専売制を敷き、ライバルとの販売部数・シェアの獲得競争を繰り広げてきた。しかし今やインターネットの普及に伴うメディアの多様化などで、新聞販売店の危機感はかつてなく高まっている。生き残りを図るため、販売店が共同で新聞配達を行う地域もある。従来の事業スタイルを維持することが難しいと考える販売店経営者も多い。

 アクセスは創業1899年、大阪府枚方市・京都府八幡市・京田辺市に13カ所の営業所を展開する朝日新聞系の新聞販売会社である。1966年に法人化され、2014年8月の時点では、正社員108人、パート・アルバイト268人の合計376人が働いており、新聞販売部数は約5万部と朝日新聞系の販売店としては最大規模である(写真1)。

 同社代表取締役の村田孝義氏は2000年に父親のあとを継ぎ、5代目の社長となった。村田社長は「昔は生活の中に新聞があったが、今の若い人は新聞を読まない。新聞社も販売店も発行部数にこだわり過ぎて、購読者の満足度をなおざりにしてしまっているのではないか」という問題意識を強く持っていた(写真2)。

写真1●アクセスの社屋
写真1●アクセスの社屋
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写真2●アクセス代表取締役の村田孝義氏
写真2●アクセス代表取締役の村田孝義氏
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 そこで村田氏は社長に就任すると、購読者向けサービスの改革に着手する。それが会員サービス「ふれあいタウン・ひらかた朝日くらぶ(以下、ひらかた朝日くらぶ)」である。同サービスの開発に当たり、アクセスは地元の北大阪商工会議所および大阪府中小企業支援センター(大阪産業振興機構)の専門家派遣制度を通じて、ITコーディネータであり中小企業診断士でもある若松敏幸氏に協力を要請した。

購読者向け会員サービスの開発をITCが支援

 購読者向けサービスの改革プロジェクトチームは村田社長をはじめとする社員・幹部ら7~8人で編成された。目標は、「(1)固定客の囲い込み、特に長期購読者へのサービス向上、(2)価格競争からの脱皮、(3)コストの削減」にあった。プロジェクトは段階的に発展・継続し、アクセスの事業基盤の再構築につながっているが、プロジェクトの発足当時は、購読者の満足度を高めるために何をすればよいのか模索が続いた。

 クレジットカード会社との提携カードや、ポイントサービスなど様々なアイデアが出されたが、自社の限られた経営資源で提供可能なサービスとなると限界がある。しかし、日々の新聞販売や配達を通じて培ってきた、営業の機動力や地域密着力については、他社にない強みを持っている。その点に着目して開発されたのが「ひらかた朝日くらぶ」という会員サービスであった。