写真1●言語デイサービスを提供するミカタの本社(提供:ミカタ)
写真1●言語デイサービスを提供するミカタの本社(提供:ミカタ)

 千葉県松戸市に本社を置くミカタは、脳卒中の後遺症による失語症といった言語障害に対するリハビリテーションを行う言語デイサービス(通所介護)を提供している(写真1)。県内の3カ所(松戸・市川・船橋)に拠点を置き、ITを活用した効果的なリハビリを行うことが特徴だ。

 同社の延べ利用者数は6万人以上にのぼる。国家資格のリハビリ専門職である「言語聴覚士」を10人配置し、介護保険の対象となる言語訓練施設として専門性の高い言語リハビリを提供することで、言語障害を持つ方やその家族のニーズに応えている。

 ミカタの渡辺賢二社長(写真2)がこの事業を始めたきっかけは、父親が脳梗塞で失語症になったことである。当時は言語障害のリハビリ施設が近隣になく、2004年に自ら開業した。さらに同氏は、リハビリのノウハウを手作りの教材として蓄積しながら、ITを活用した教材に発展させ、限られた人員で最大の効果を追求した。この業績によってミカタは、経済産業省の2016年「攻めのIT経営中小企業百選」に選定されている。

写真2●ミカタの渡辺賢二社長(提供:ミカタ)
写真2●ミカタの渡辺賢二社長(提供:ミカタ)
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 言語障害に対するリハビリは医療制度の下では短期間しか受けられない。それに対して、介護制度の下では、より長い期間にわたり受けることができるが、言語障害のリハビリに特化したデイサービスセンターが少ない点が課題だ。言語聴覚士は医療機関に多く、介護保険制度下には少ない。また言語障害者専門のデイサービスセンターは全国20カ所程度にしかないと言われている。

 ミカタはそうした状況の中、言語障害のリハビリに特化したデイサービスセンターとして外部から高い評価を得ており、言語聴覚士を確保することで定員充足率についても90%と高い水準を達成している。ここでは言語聴覚士の生産性を高めるために、ミカタが挑戦した「教材の電子化」「電子黒板・タブレットの活用によるグループ言語リハビリ」について、ITコーディネータ(ITC)の支援内容を含めて紹介しよう。

言語障害のリハビリニーズが高まるも人員・施設が不足

 言語障害のリハビリニーズは高い。厚生労働省の「平成26年 患者調査の概況」によると、脳梗塞や脳出血といった脳卒中で継続的な治療を受けていると推測される患者数は、117万9000人である。脳卒中の後遺症を持つ方がリハビリを受ける施設は基本的に医療機関だが、医療機関は1対1のリハビリのために対応できる回数・時間(1回45分)が少ない。自宅におけるリハビリはあるが、数年間にわたって根気よく続ける必要があり、一般に容易ではない。

 それに対して、デイサービスによるリハビリは介護保険を適用できるうえに、回数・時間が多いという点で大変貴重だが、深刻な人員・施設不足が課題になっている。常勤の言語聴覚士を配置しているデイサービスセンターは、前述のように全国でも20カ所程度。また、リハビリを支援する言語聴覚士は病院勤務が主流であり、デイサービスセンターでは複数人を非常勤で確保することが精一杯である。

 加えて、言語リハビリ用の教材は、利用者各自の言語能力や関心に合わせて作成しないと期待した効果を得にくい。多様な重症度の障害を持つ利用者の言語能力に対応させながら、飽きずに日々継続できる水準の教材をそろえようにも、作成に膨大な時間がかかるため、実現は容易ではない。

 ミカタは開設当初から、作成に時間をかけてでも、手作りのオリジナル教材を言語聴覚士が作成してリハビリを実施していたが、やはり大きな課題であると考えていた。