今回は、グローバル企業が社員教育のために注目しているマインドフルネス(Mindfulness)について書いてみたい。

 もしあなたの同僚や上司が、禅に凝って瞑想をしていると聞いたら、あなたはどのように感じるだろうか。

 自然に受け入れることができる人ばかりではないだろう。

 しかし、もし故スティーブ・ジョブズが東洋思想に傾倒し、禅や瞑想を常日頃から実践していたと知ったらどうだろう。ジョブズに限らず、欧米のハイテク企業で働く人達の間では、瞑想は何も特殊なものではない。例えば、米国西海岸にある大学やハイテク企業のキャンバスや公園では、降り注ぐ太陽のもと、目をつむりあぐらをかいて瞑想している人たちを、実際よく見かける。

 ジョブズは、曹洞宗の僧侶である乙川弘文老師に師事し、1970年代から東洋思想、特に仏教に影響を受け日常的に瞑想を実践していたという。彼の突出した「創造力」の源泉の一つは、禅や瞑想という精神世界にあるといわれている。

いくら「創造力」を発揮せよと言われても

 企業が求めている能力は、「情報処理能力」「問題解決能力」「コミュニケーション能力」などが基本であることは言うまでもない。

 最近では、クラウドシステムやモバイルの普及と同時に、これらの機能の一部が革新的なアプリケーションによりカバーされてきているため、人材の優劣の評価ポイントは人間にしかできない「創造力」や人心を掌握する「リーダーシップ力」に大きくシフトしてきている。

 どんな企業、組織でも、そこで働く人々に対して日常の仕事でのたゆまない効率化と付加価値の創造を求めている。そして、もはや「欲しいモノがない」成熟したマーケットの中で、誰もが今までにない革新的、画期的な製品・サービス・ニーズを、速いサイクルで次々と創造しようとしのぎをを削っている。

 ところが、現実にはそう簡単に付加価値が創造できるわけもないし、素晴らしい画期的なアイデアが次々と出てくるはずもない。

 働く環境も、この数年間で大きく変化してきた。情報インフラの発達やスマートフォンなどのモバイルデバイスの普及により、どこにいてもメールのやりとりや会議などができるようになった。裏を返せば、「仕事から逃げ場のない」環境でもある。

 この働く環境の変化、自分に対する大きな期待と現実とのギャップの中で、多くの働く人々が強いストレスを感じて苦しんでいるのではないだろうか。

 日本人特有の真面目さのためもあり、深く仕事のことで悩んだり、長時間労働を自分に強いたりして、精神的に燃え尽きてしまう人も多いのが実情だ。

多くが「心のマネジメント」を必要としている

 それでは、欧米のグローバル企業で働く人たちはどうなのだろうか。

 今までの欧米流の手法はこうだ。報酬やプロモーションなどのインセンティブ制度でモチベーションを引き上げて全力疾走で走らせ、ダメになったら即チェンジ!というのが普通だった。しかし、最近ではその手法も限界にきているようだ。

 非常に優秀な人材でも、ストレスをかかえて精神的に参ってしまうようなケースが急増しているからだ。「ダメだからチェンジ」といっても、そう簡単に優秀な人材が次々と出現するはずもない。日本だけでなく世界中で優秀な人材は足りないのだから。