2018年7月13日、総務省「放送を巡る諸課題に関する検討会」では、先に示された「放送サービスの未来像を見据えた周波数の有効活用に関する検討分科会」の報告書案に、NHKの常時同時配信や三位一体改革に向けた内容を加えた第二次取りまとめ案が示された。6月15日には、2017年10月から内閣府の規制改革推進会議で議論されてきた放送を巡る規制改革について閣議決定されており、これで「放送の未来像」を巡る議論は一段落したといっていいだろう。

 筆者は、一連の議論の傍聴や事業者への取材を通じて、メディア全体が構造変化する中での「放送の概念」の再定義や「放送事業者の役割」の再構築について考えを深める立場にある。昨今、放送業界は「既得権益の上に胡坐をかく護送船団」「往来のビジネスモデルを変更できないレガシー集団」と揶揄されることも少なくない。それらの批判には正鵠を射ているものとレッテル貼りに過ぎないものが混在するが、業界の片隅に身をおく者として思うのは、放送事業者の真価が問われるのは、議論が一段落したまさにこれからだということである。これまでの議論から何を学び、具体的な取り組みにどう生かしていくのか。規制改革推進会議の答申や総務省・検討会の取りまとめ案の内容だけでなく、最終的には記載に至らなかったものの中にも重要だと思われる指摘も多々あった。以下、これまでの議論を振り返り、放送の未来像に関する論点を筆者なりに提示してみる。

<周波数の有効利用>

 規制改革推進会議の放送分野への目線は当初、既存の地上放送事業者に割り当てられている周波数を有効活用できないか、というものであった。背景には、人々の暮らしや地域の課題を解決するためのパーソナルサービスが増大する「Society5.0」時代を迎える中、少しでも通信サービスに活用できる帯域を増やしたいという考えがあった。

 答申では、地上用帯域ではV-Highと放送大学の跡地、そして衛星放送について具体的な言及がなされた。一方で、当初議論の対象としていた既存の地上放送事業者用帯域については、「利用状況の調査、有効活用の方策のための調査検討」が指示されるにとどまった。

 しかし総務省の「電波有効利用成長戦略懇談会」で論じられているポスト5G時代である2030年代までを見通すと、地上放送事業者はMPEG-2を使った現行の2K放送をいつまで続けるのか、そして一定のサイマル期間を経て4K放送へと高度化するのかどうかの判断が不可欠であり、その判断と周波数の有効利用の議論は密接不可分な関係にある。規制改革推進会議では、どの時点の未来を想定するのか、その前提が共有されないままかみ合わない議論が展開されたという印象を強く持った。

 地上4K放送については、「実施の是非」も含めて、総務省の場で議論が行われることが検討会の取りまとめ案で示された。高度化には莫大なコストを要するだけに放送事業者には厳しい経営判断が、そして国民に対して4Kテレビの購入を求めていくことにもなりかねないため、総務省には厳しい覚悟が求められる。

 ただ、この判断を経なければ、技術としての放送の未来像は描けない。一方で、通信サービスにおける有線、無線の融合は今後一層進んでいくだろう。IP放送の推進、常時同時配信、これらを放送の高度化にどう組み込みながらユニバーサルサービスの実現を図っていくのかを考えることが、より現実的な選択肢なのかもしれない。いずれにせよ、踏み込んだ議論と判断を期待したい。