V-Lowマルチメディア放送(コミュニケーションネームはi-dio)のプレ放送が2016年3月1日に、福岡、大阪、東京で始まった。併せて、現在準備を進めているのが、同放送波を活用した防災情報システム「V-ALERT」である。このシステムを導入した自治体は、例えば必要なときに防災行政無線の音声をそのまま指定エリアに配信したり、J-ALERTあるいはLアラートや自治体システムと接続することで、自治体や公共機関が発する緊急情報を、遅延なく地域住民に配信できるようになる。既に、福岡県宗像市が三郎丸地区の土砂災害警戒区域の世帯に2015年9月からV-ALERT対応防災ラジオの配備を開始し、試験的に導入したと発表済み。宅内設置の防災ラジオ端末を使い、豪雨時でも家の中まで情報を伝えることが可能となる。V-ALERTプラットフォームの開発を進める株式会社VIP(V-Lowマルチメディア放送のハード会社)の仁平成彦・代表取締役社長に、V-ALERTの特徴や、準備の状況、課題などを聞いた。

(聞き手は本誌編集長、田中正晴)

V-ALERTとはどういうものか。

株式会社VIP 代表取締役社長
株式会社VIP 代表取締役社長
仁平 成彦氏

仁平 V-Lowマルチメディア放送の放送波を使って、地方自治体が地域の住民に向けて、災害情報や地域の安心・安全情報を自ら配信する仕組みを「V-ALERT」と呼んでいる。V-Lowマルチメディア放送には、端末を自動起動する機能があり、ある地域に危険が迫ると当該エリアの端末だけ電源を自動的に立ち上げて、危険を知らせることができる。通常の番組を聞いていても、当該エリアの端末に強制割り込みをかけて危険を知らせる。

 自治体は、放送波を使って「直接広報」ができる。このシステムは住民にとって重要な情報を自治体から受け取り、そのまま放送波に乗せて配信する。配信にはIPデータキャストを使っており、音声だけでなく、テキストや静止画でも情報を送信できる。

あなた危険ですよと自治体が住民に情報を伝えたいとき、V-Lowマルチメディア放送のシステムを経由してどう情報が伝わるのか。

仁平 音声を例とすると、音声回線で各ブロックのソフト会社(東京マルチメディア放送などマルメディア放送各社)まで送ってもらう。情報を受け取ったソフト会社は、音声をIPパケット化して放送波に多重する。放送そのものは複数の都道府県をまとめたブロック単位で同一内容のものが配信されるが、このIPパケットはエリアコード(基本的に市区町村コード)などと一緒に送信するので、端末が同コードを参照することにより、市町村単位で情報を出し分けることができる。また必要があれば、サブエリアコードの利用も可能。例えば土砂災害の警戒区域や河川の流域など、さらに細かな地域単位で情報を出していける。

音声以外にも様々なデータを出すことが可能だが、その入力システムは。

仁平 自治体ごとに、災害情報や安心・安全情報の提供の仕方には様々な形態がある。その形態に合わせて、それぞれの自治体が各ベンダーと組んで、安心・安全情報を提供するシステムを構築している。V-ALERTでは、データの受取口として共通インタフェースを用意している。ベンダー各社にその内容を公開することで、自治体側はこれまで通り情報を入力すれば、ベンダー側によるシステム開発でその情報をV-ALERTに入力するシステムを用意できる。情報の入力インタフェースを共通化することで、多様な現場の実情に対応できるようにした。

 例えば宗像市では、J-ALERTや気象情報などから、まずテキストベースのデータを作る。その内容を防災メールとして配信するとともに、それをベースにTTS(音声合成)で読み上げた音声がテキストと一緒にV-ALERTで提供される。宅内に設置された端末で、音とテキストの形でその情報が提供される。