この1〜2年、デジタルマーケティングの世界で「カスタマージャーニー」という言葉を耳にする機会が多くなっている。この「カスタマージャーニー」とは、消費者が商品やブランドと接点を持ち、その後関心を持ち、購入意欲を喚起されて顧客化するまでの流れを旅に例え、消費者の行動や心理を時系列的に可視化するという考え方である。もともとは、UX(ユーザーエクスペリエンス)をデザインする目的で、自社が提供する商品やサービスにとって象徴的なユーザーを「ペルソナ」として設定し、その行動を検証・改善するために使われていたものだが、近年は、その考え方がマーケティング活動にも応用されている。

 その背景には、技術やツールの進化がある。つまり、ウェブサイトやEメール、そしてSNSやモバイルデバイス用のアプリなど、企業のマーケティング活動は、様々な接触ポイントで展開されているが、これらによってもたらされる消費者や顧客の行動が、細かくデータとして可視化できるようになったという点が大きい。言い換えれば、これまではマーケッターの経験に基づく「肌感覚」といった、定性的な仮説によって考えられていたマーケティング施策が、データドリブン(効果測定などで得られたデータを基に、次のアクションを考えること)になったことで、それぞれの施策の因果関係を明確にすることが可能になり、マーケティング活動全体が最適化されるようになっている。こうした変化が「カスタマージャーニー」といった考え方の普及を後押ししている。

 しかし、この「カスタマージャーニー」という考え方を実践していくに当たって、そのハードルも少なからず存在する。今月発表された英イーコンサルタンシー社のリポートを読み解くと、「カスタマージャーニー」を考えるうえで、少なくとも必要なデータを収集、分析する環境が、整っていないという点が浮き彫りとなっている。

 実際、現在企業が「カスタマージャーニー」を見ていくに当たって、用いるデータは、オンライン上の行動データ(ウェブサイトのアクセス解析データ)、Eメールから得られるデータ、そしてCRM(顧客関係管理)データの3種類に偏っている傾向が強い。これらのデータを用いている企業は、少なくとも全体の約3分の2以上に上っているが、それ以外のデータについては、ほとんど使われていないのが現状だ。