「現在も、粛々とプロジェクトに基づく研究開発を進めている」(ExaScalerの鳥居淳研究開発部長/CTO)。

 2017年12月現在、PEZYグループでスパコンの製造・開発を担うExaScalerは、創業者が不在の中でも事業を継続している。同社が開発したTOP500ランキング世界4位の「暁光(Gyoukou)」をはじめ、PEZY-SCアーキテクチャーを採用したスパコンは今も稼働している。

ExaScalerのWebサイト
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 ExaScalerが取り組んでいるのは、文部科学省所管の科学技術振興機構(JST)の産学共同実用化開発事業(NexTEP)未来創造ベンチャータイプで、2017年1月に採択されたプロジェクト「磁界結合DRAM・インタフェースを用いた大規模省電力スーパーコンピュータ」に基づく研究開発だ。

 同プロジェクトの期限は2018年6月30日まで。それまでExaScalerは、海洋研究開発機構(JAMSTEC)に設置された「暁光」の改良に取り組むことになる。2017年12月13日には20ペタFLOPS(1秒当たり浮動小数点演算回数)超えのマイルストーンを達成した(プレスリリース)。

 ただし事業名称にある「磁界結合DRAM」については、現時点で暁光に組み込まれていない。磁界結合DRAMの開発はPEZYグループのウルトラメモリが担当しているが、「データ通信はできているが、量産して実戦投入するには、まだ時期尚早」(鳥居CTO)。2018年中に磁界結合DRAMを搭載したボードを暁光に組み込むことを目指している。

 JSTから融資を受けた52億円の資金は、同スパコンの事業化に成功した場合は最大5年の猶予を経て10年以内に全額返済、失敗した場合は10%分のみ返済となる。JSTは以前からこうした融資スキームを委託開発の形で実施しており、「今回のプログラムはベンチャー企業に特化した委託開発との位置づけ」(JST広報)。当面は資金の返済を求められないこともあり、「現時点でプロジェクトを継続するうえで資金面での問題はない」(ExaScalerの木村耕行社長CEO)という。

 ExaScalerはスパコン技術の研究開発に加え、独自の液浸冷却装置と他社のプロセッサを組み合わせたスパコンの外販にも取り組む。米インテルのXeonプロセッサと米エヌビディアのTesla V100-SXM2を組み合わせた省電力スパコンを販売する。

 現時点でExaScalerのスパコン販売実績は、ヤフーに納入した「kukai」と、もう1社のみ。2018年はスパコンの外販活動を強化し、スパコンベンダーとしての地力と実績を積み重ね、PEZY-SCスパコンの販売につなげる考えだ。

ソフトウエア開発プロジェクトも継続する

 PEZYスパコンのアプリケーションやミドルウエア開発では、理化学研究所を代表機関とする研究プロジェクト「ヘテロジニアス・メニーコア計算機による大規模計算科学」が今も活動を継続している。

 省エネランキング「Green500」で世界首位の「Shoubu(菖蒲)system B」を主に使い、メニーコア型コンピュータの効率的なプログラミングモデルを開発する。大規模計算では「暁光」を活用する計画もある。

 2017年10月に文部科学省「高性能汎用計算機高度利用事業費補助金」の同プロジェクトへの交付が決まり、年4000万円、最大5年の研究開発費を確保した。理研のほか神戸大学、JAMSTEC、電気通信大学、KEK(高エネルギー加速器研究機構)、国立遺伝学研究所の研究者が参加する。重力多体問題、分子動力学、流体力学、遺伝子解析など10種類のアプリケーションを開発するほか、PEZY-SCシリーズのミドルウエアの開発にも取り組む。

 既にPEZY-SCアーキテクチャー上で上で開発されたアプリケーションとして、電気通信大学による「猫の小脳のリアルタイムシミュレーション」のほか、量子色力学シミュレーション、量子モンテカルロをはじめとした組み合わせ最適化問題のソルバーなどがある。