総務省はNTT東西の加入電話網(PSTN)がIP網に移行することを踏まえ、NGN(次世代ネットワーク)のアンバンドル(設備開放)促進に力を入れている。2016年11月に優先パケット識別機能と優先パケットルーティング伝送機能のアンバンドルを決定済み。今後、さらなる開放を検討していく構えだ。

写真●総務省はPSTNマイグレ後に備えて着々と準備を進めている
写真●総務省はPSTNマイグレ後に備えて着々と準備を進めている
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 総務省がNGNのオープン化に力を入れる背景には、IP網への移行後も公正な競争環境を確保する狙いがある。NTT東西が第一種指定電気通信設備制度(固定系)に基づいて接続事業者に開放している機能は34種類。指定対象が徐々に減っていることに加え、「大半はPSTN・メタル回線に関連した機能。NGN・光回線関連のアンバンドルはIGS(関門交換機)接続ルーティング伝送機能など、ごく一部に限られる」(総務省)。つまり、PSTNマイグレが完了するとアンバンドル機能が大きく減り、競争促進が後退してしまいかねないというわけだ。

 2016年11月にはソフトバンクが長年要望していたNGNの優先パケット識別機能と優先パケットルーティング伝送機能の開放も決めた。0AB~J番号を用いたIP電話の安定品質要件を満たした独自サービスを接続事業者が展開できるようになり、ソフトバンクは「ホワイト光電話」に適用する見通し。ISP(インターネット接続プロバイダー)でもNTT東西の「光コラボレーションモデル」と組み合わせた独自サービスの展開が考えられそうだ。

 総務省は今回のアンバンドル機能を音声系にとどまらず、映像をはじめとしたデータ系サービスにも活用を広げたい考え。NGNの転送品質は、(1)最優先クラス、(2)高優先クラス、(3)優先クラス、(4)ベストエフォートクラスの4種類に分かれ、様々な使い分けが考えられる。NTT東西を例に挙げると、(1)は「ひかり電話」、(2)は「データコネクト」、(3)は「フレッツ 光ネクスト プライオ」(NTT東日本)、(4)は「フレッツ光」といった具合である。接続事業者も同様なサービス展開が可能で、NTT東西が2017年1月に認可申請を予定する接続料が注目と言えそうだ。

 このほか、総務省は2016年7月、情報通信行政・郵政行政審議会の議論を受け、「NTT東西の利用部門が利用しているNGNの網機能のうち、接続約款で明記されていない網機能とその仕様の対応関係を明確に整理して報告すること」をNTT東西に要請済み。NTT東西の報告は既に受けており、アンバンドルのあり方に関する具体的な検証を始める。接続事業者の利用要望を広く募集したうえで、アンバンドルのさらなる促進を模索していく考えである。もっとも、NGNのアンバンドルを前提にとにかく指定対象を増やせばよいというわけでもない。まさに利活用の拡大につながるような議論に期待したい。

 一方、PSTNマイグレを議論する総務省の電話網移行円滑化委員会では、有識者から以下のような指摘もあった。「NTTは、せっかくNGN網というしっかりとした基盤と光ファイバーを持っている。具体的に何をしたいのかという要望を聞いてから動くのではなく、むしろ新たな競争や新たな参入の促進、この機能をアンバンドルすると、このような新たな価値が生まれるといったことを提案するくらいの姿勢が問われている」。振り返れば「光コラボ」の提供が認められたのも、まさに上記指摘のような展開を期待したからではなかったか。NTT東西には今こそ積極的な提案が求められる。