楽天が携帯電話事業への新規参入を決めた。2018年1月にも新会社を設立し、周波数の新規割り当てを総務省に申請。新規参入を無事に認められた場合は2019年中にサービスを始める計画だ。将来的に1500万人の顧客獲得を目指す。

楽天は2017年12月14日、携帯電話事業への新規参入を表明した
楽天は2017年12月14日、携帯電話事業への新規参入を表明した
出所:楽天
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 同社はECサイトの「楽天市場」をはじめ、旅行予約サイトやクレジットカード、ネット銀行、オンライン証券、メッセージアプリなど様々な事業を手掛け、国内だけで約1億件のID数(楽天ID)を保有する。この顧客基盤を武器に携帯電話のユーザーを広げ、様々なサービスを垂直統合で提供する計画を描く。

 楽天市場はモバイル端末経由の取扱高が6割超を占め、同社サービスにおけるモバイル経由の取扱高は一貫して増加傾向にあるという。今後のサービス拡充や新規展開を考えるとモバイル端末が重要なタッチポイントとなることは疑いの余地がなく、携帯電話事業への新規参入が実現すれば貴重なパーツをそろうことになる。

 一方、携帯電話大手を見ると、物販や決済、保険、電気などに手を広げ、総合力勝負の様相を呈している。EC分野ではKDDIがKDDIコマースフォワード(Wowma!)、ソフトバンクがヤフーを通じて猛攻を仕掛ける。楽天はAmazon.co.jpを追うどころか、下から突き上げを受けている状況であり、自らも携帯電話事業に参入して競争を仕掛けるのは自然な流れに見えるかもしれない。

 だが、携帯電話事業への新規参入はハードルが桁違いに高い。携帯電話業界では「既存事業者の買収による参入ならともかく、全くの新規参入はあり得ない」というのが常識である。

 「あり得ない」=「勝ち目がない」ということだ。楽天は事業計画の詳細を明らかにしておらず、今回の発表だけでは評価できないが、普通に考えれば相当に厳しい展開が予想される。

設備面の不利は簡単に補えない

 新規参入が厳しい最大の理由は、設備の「厚み」が既存の携帯電話大手3社に比べて圧倒的に劣ることだ。大手3社は既に99%以上のエリアをカバーし、設備投資に毎年数千億円を投じている。この差を短期間で埋めるのは不可能に近い。

 高速化競争にも取り残される。高速化には様々な手法があるが、主役は複数の周波数を束ねるキャリアアグリゲーション。保有する周波数幅がカギを握る。大手3社はグループ会社(広帯域無線アクセスシステム)を含めて160MHz以上を保有するが、楽天が今回割り当てを受けられるのは最大80MHz。

 ただ、大手3社も当然、新たな割り当てを希望するため、奪い合いになる。審査が競合した場合は新規参入が優遇(加点)されるものの、現状の指針案を踏まえると、1.7GHz帯の40MHz(20MHz×2)だけとなるのが濃厚である。

新しい周波数の割り当て案
新しい周波数の割り当て案
出所:総務省
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 つまり、当面はエリアが狭く、通信速度も遅いといった状況で競争を余儀なくされる。もちろん、エリアの問題については大手3社のいずれか(NTTドコモが有力とみられる)とローミング(他社網への乗り入れ)契約を結ぶことで解消できるが、ローミングは通常、従量課金なので費用負担が重い。