「MVNO事業は長い戦いになる。トーンモバイル(TONE)はじっくりと構えて市場を取りに行く」――。前身となるfreebit mobileを含めMVNO事業に参入して3周年を迎えたトーンモバイルの石田宏樹代表取締役社長CEOは、2016年11月30日に開催した説明会でこのように語った。

写真●「MVNO事業は長い戦いになる」と1機種1プランの独自戦略の強みを強調するトーンモバイルの石田宏樹代表取締役社長CEO
写真●「MVNO事業は長い戦いになる」と1機種1プランの独自戦略の強みを強調するトーンモバイルの石田宏樹代表取締役社長CEO
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 トーンモバイルの戦略は、数ある国内MVNOの中でも独自色が強い。垂直統合体制で端末からサービスの開発まで手がけるほか、発売する端末、プランは1機種1プランのみ。頻繁にソフトウエア更新を行い、後からアプリを追加する。販路は量販店などではなく、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)のTSUTAYA店舗といった具合だ。

 もっとも独自色が災いしてか、伸び盛りのMVNO市場の中でトーンモバイルの存在感は薄い。契約数は非公表だが「様々なものを入れて数十万件の規模」(石田CEO)。MM総研などが公表するMVNOの事業者シェアランキング上位に顔を出しておらず、現段階では当初期待されたほどの契約数は獲得できていないようだ。

 冒頭の石田CEOの発言は、このような見方の反論とも取れる。石田CEOは、現在580社(総務省調べ、2016年6月末時点)のMVNOの社数について「これからさらに4倍ほどは増えるだろう。我々はISP(インターネットサービスプロバイダー)事業で、この手のビジネスを既に経験している」と続ける。国内のISPは1992年に最初の事業者が登場し、最盛期である1998年には2651社まで増えた。同様のアナロジーで、MVNOの社数はまだまだ増えるという見立てだ。その後、ISPは現在までに300社まで減った。「ISPが提供するプラン数が増えたことから、ユーザーのサポートコストが重くなり、事業者の収れんが進んだ」(石田CEO)。

 石田CEOは、MVNO市場もISPと同様の収れんが起こるとする。MVNO各社が扱う端末数やプラン数は拡大の一途をたどっており、「やがてサポートコストが重くなり、耐えきれなくなる事業者が出てくる」(石田CEO)という考えからだ。このような動きを想定しトーンモバイルでは、1機種1プランというサポートコストを極力抑える戦略を取っているという。

 石田CEOの言うとおり、長期的に見れば、サポートコストを抑えられる1機種1プランの強みは生きてくるだろう。ただ短期的に見れば弱みも目立つ。例えば1機種1プランを売るだけでは、店頭で目新しさを見せることが難しい。ユーザーを店頭に足を運ばせるきっかけとなるのは、やはり新端末の投入だ。この点ではMVNOの中で、同様に端末開発まで手がけるプラスワン・マーケティングの見せ方がうまい。石田CEOも「同じ指摘を3カ月ほど前にTSUTAYAの人に言われて気づいた。見せ方によってこのような課題を解消する実験が終わったところ」と打ち明ける。

 トーンモバイルによるTSUTAYAへの販路展開は55店舗に達した。2016年度内に200店舗の展開を目指している。「200店舗に達すればかなりの戦いができる。早期に100万契約も見込める」と石田CEOは続ける。

 石田CEOの見立て通り、じっくりと構えたほうが最終的に果実をもぎ取れるのか。それとも他のMVNOのように、この1~2年が勝負として顧客獲得を最優先したほうが勝つのか。MVNO各社が勝負をかけて店舗展開を加速する2017年に、その勝敗の一端が見えてきそうだ。