KDDIは2016年12月8日、プロバイダー大手のビッグローブを買収すると正式発表した。日本産業パートナーズ傘下のファンドが保有する全株式を約800億円で取得し、2017年1月末をメドに完全子会社化する。

 光回線とMVNO(仮想移動体通信事業者)の双方で多数の会員を抱えるビッグローブの買収により、各社が拮抗しつつある市場環境のなかでも業界のガリバーであるNTTグループに対抗し勢力図を一挙に広げられる可能性がある。コンテンツや決済といったKDDIのサービスをビッグローブの会員に提供できれば、ここ数年の至上命題となっている「au経済圏」の拡大にも追い風となりそうだ。

乗り遅れたMVNOブームの波に乗り、ドコモ回線からの転換も

 KDDIはNTTグループに対抗するべく、auブランドのサービス領域の多角化やCATV(ケーブルテレビ)事業者の買収などを進めている。2012年3月には携帯回線と光回線のセット割引「auスマートバリュー」を開始し、NTTドコモからMNP(携帯電話番号ポータビリティ)でシェアを奪取。開始前の同年2月末に約3400万契約だった携帯回線を直近の2016年9月末には約4700万契約まで増やす原動力となった。

 しかし直近では、スマートフォン(スマホ)ブームの一服や総務省の「実質0円」規制などに伴い競争が沈静化。シェアの大きな伸長は見込みにくい情勢にある。

 一方、市場調査会社のMM総研(東京都港区)によると、「格安SIM」などと呼ばれる独自サービス型SIMの回線数は2016年3月末で539万契約と500万契約の大台を超え、さらに伸び続けている。

 KDDIは当初MVNO市場への積極的な関与を手控えていたが、結果としてNTTドコモ回線を借りたMVNOの台頭を許す結果となった。ソフトバンクも、旧イー・モバイルの「ワイモバイル」を格安SIM相当のサブブランドと位置づけ攻勢を強めている。KDDI系のUQコミュニケーションズも2016年10月から、女優の深田恭子さんらを起用したCMを大量出稿するなどしているが、出遅れ感は否めない。

 一方、ビッグローブは比較的早い段階から格安SIMサービスを展開しており、自社のプロバイダー契約者などを中心に40万回線強の契約数を確保している。KDDIにとっては、UQコミュニケーションズに加えビッグローブを傘下に収めることで、MVNOという伸び盛りの市場において少しでも大きなパイを確保するという点でメリットが期待できる。

 加えて、携帯電話サービスの基礎体力といえる回線数やパケット通信料収入でもプラスとなる。ビッグローブの格安SIM回線は今のところNTTドコモ網だが、これをKDDI網に切り替えさせれば、回線シェア増大と連結ベースの利益率拡大という2つのメリットが望める。