「業務にAI(人工知能)を導入して効率化したり、経験や勘に頼っていた予測や判断を支援させたりしてみたい。しかし専門知識を持ったAI技術者が社内にいない」――。

 こうした日本企業が直面する人材不足への解決策として、AI導入のハードルを大きく下げる開発支援製品やサービスが登場してきた。AIエンジンのひな形を用意して開発作業を省力化したり、学習データの作成・管理などAI開発で発生する様々な工程を効率化したりできる機能を備えることが特徴だ。

 プログラミングが一切不要でAIエンジンを開発できる製品もある。実際にこの製品を使ってAIを自社導入したのが、九州を中心にホームセンター63店舗をチェーン展開しているグッデイだ。花や葉の付き具合から鉢植えの品質を判定するなどの独自の画像認識エンジンを開発し、業務に使い始めている。

 この画像認識エンジンは同社の社長が自ら開発したという。柳瀬隆志社長は「AIに関心があり概念的な仕組みは情報ソースから得ていたが、詳細なアルゴリズムまでは勉強していない。それでも実用的なAIを構築できた」と話す。

AI案件のノウハウを製品に注入

 製品の開発元はいずれもAIやデータ解析技術を得意とする国内のITベンチャーだ。これまでの企業向けAI開発案件で得た技術的蓄積やノウハウを基に、AI開発で必要とされる機能をテンプレート化している。

 例えば、クロスコンパスが2017年7月に製品化した「Manufacturing-IX(M-IX)」は、工場内での制御や異常検知など、同社が得意とする製造業の現場でよく使われるAIモデルをあらかじめ組み込んだ。用意されたAIモデルを使う場合はプログラミングの必要がなく、製造部門の技術者でも使えるように設計したという。

 小企業や企業の部門導入に向けて、GUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェース)で実用的なAIを開発・運用できることをうたうのが、グルーブノーツがクラウド型で提供する「MAGELLAN BLOCKS(マゼラン ブロックス)」だ。深層学習などの処理モジュールを表現したブロックを画面上で組み合わせるだけでAIモデルを構築できる。グッデイが開発した花の品質を判定する画像認識エンジンも、MAGELLAN BLOCKSで構築している。

 ABEJAが2018年2月の商用化を予定する「ABEJA Platform」は、AIモデルの構築でなく、AI開発の工程全体を管理・支援することに焦点を当てたクラウドサービスだ。テンプレート化したAIモデルは提供しないが、学習データの管理やAIモデルのバージョン管理など、開発プロジェクトで必要となるさまざまな工程を効率化する機能を提供する。

国内で提供される主なAI開発支援製品・サービス
製品・サービス名/提供企業概要製品化時期/料金
MAGELLAN BLOCKS(マゼラン ブロックス)/グルーブノーツ画面上のブロック配置などで設計できる、クラウド型のAIモデル開発・運用サービス。モデルは回帰分析/数値特性による分類判定/画像識別の3種類を用意し順次追加予定。グーグルのGoogle Cloud Platform(GCP)上で稼働する2017年1月にAI機能を追加/1モデル当たり月額10万円、GCPの利用料が別途必要
Manufacturing-IX(M-IX)/クロスコンパス製造業に特化したAIモデルの開発・運用製品で、主に工場内でのオンプレミス運用を想定した。装置や製造プロセスの制御、製造条件の分析などに向く複数のモデルや開発手順を用意し、プログラミングなしでのモデル開発・運用も可能。流通業向けなど他業種向けも開発予定2017年7月/個別見積もり
ABEJA Platform/ABEJAAI開発・運用のプロセス全体を支援するクラウドサービス。プロジェクト管理やモデルのバージョン管理、学習データ管理の機能のほか、人手による学習データ作成の業務受託などをパッケージ化2018年2月/料金未定