「お察しの通り、今回の料金プランは上限付きの従量制を言い換えたもの。しかし節約意識が高い入門者にとって、『月額○○円から』と最低額を訴求するより、通常利用時の『上限額』を明示するほうが訴求力がある」――。

 インターネットイニシアティブ(IIJ)は使い残したデータ通信容量に応じて月額料金を割引する新料金プランを12月1日から提供開始した。サービス開発を担当したMVNO技術開発部企画推進課の早坂忍課長は、この「使い残したら割引」の“タネ”を冒頭のように明かした。

写真1●IIJが新たに開始した「使い残したら割引」するMVNOサービス、「IIJモバイルプラスサービス」のWebページ(出所:IIJ)
写真1●IIJが新たに開始した「使い残したら割引」するMVNOサービス、「IIJモバイルプラスサービス」のWebページ(出所:IIJ)
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 新サービス「IIJモバイルプラスサービス」は、同社の直販サイトで扱うスマートフォンと新しい料金プランをセットで販売するサービスだ。KDDI(au)のLTE回線で提供する。SMS付き・音声サービスなしの料金はデータ通信容量3Gバイトで月額900円、7Gバイトで同1700円で、このほかに端末代金の支払いが加わる(割賦・一括支払いを選択可能)。

 この料金水準自体に目新しさはないが、データ容量を使い残したら500Mバイト当たり100円を自動的に割り引く点が目を引く。3Gバイトのメニューは使い残し2Gバイトまで、7Gバイトは使い残し6Gバイトまで割引額が増える。つまり両方のメニューともに、使用容量が1Gバイト未満だった月の割引適用後の最低課金額は500円になる。

 つまり新料金は、本来は「月額500円から」で、課金単位が500Mバイトの従量制料金というのが実態だ。月額データ容量の上限を超えた場合の追加料金は500Mバイト当たり100円なので、追加部分も含めて完全な従量制と言える。

 これをわざわざ「使い残したら割引付きの定額料金プラン」に言い換えたのは、新サービスのターゲットに据えるスマホ乗り換えを検討する入門者、特に主婦層のニーズに応えるためだという。

 IIJの早坂課長らは新サービス開発に当たり、自社サービスのモニターに対してアンケートなどを実施。「主婦層は無駄なことにお金を使わない、節約のために多少の手間も惜しまないなど、節約意識がとても強い」(早坂氏)。例えば使い切れない容量は、繰り越すよりも割り引いてくれるほうが節約意識に訴える。上限額から割引するという料金設計は、節約志向が強いユーザーの心理をくすぐる料金体系だ。

 また文字数など表現に制約がある広告で「月額500円から」と最低額を全面に押し出しても、節約意識が強いユーザーは上限額が示されていないことをむしろ警戒するという。上限額を明示した上で「余った通信量は割引します」と表現した方が安心できる、というのが早坂氏らの見立てだ。

 ただIIJは新しい料金プランを幅広いユーザーに向けて広げるつもりはない。新サービスは対応回線をKDDIに限り、端末も入門者向け機種がセットになっている現状を変える予定はないと明言する。同社の大多数を占めるNTTドコモ回線にこのプランを広げると、MVNO事業全体の収益性悪化につながりかねないからだ。

 新プランは、通信料金の節約に訴求ポイントを置いたサービスでもあり、ユーザー層を広げる効果に期待するものの「料金割引は収益面ではマイナスに響く」(早坂課長)。NTTドコモの回線やKDDI回線で提供している既存プランと比べると、新プランはサービスに制約が多いものの追加容量の料金が明らかに割安に設定されている。だからこそ同社のMVNO事業にとって本流ではないKDDI回線に限り、ユーザー層拡大のために“奇手”を繰り出したとの見方もできる。