「買い物をしに来たわけではないし」。スマートフォンの現在地情報を基に広告を表示するサービスは数多くあるが、利用者にとっては邪魔になることがある。そうした課題を解決する新たな広告サービスを凸版印刷が開発した。同社が展開する電子チラシサービス「Shufoo!(シュフー)」の閲覧履歴から、利用者1人ひとりの「買い物行動圏」を分析。利用者がSNS(交流サイト)などを見ているときに、行動圏に合わせた広告を出せる。

 2017年10月から新しい広告サービスとして提供を始めた。年間3000万人が利用するシュフーは、スーパーやホームセンター、家電量販店、衣料品店など3500社・10万店舗の電子チラシを掲載する。ページビューは月間3億回。凸版印刷は米トレジャーデータのデータ管理サービス上にシュフーのデータ活用基盤を構築している。シュフーの利用頻度を高める施策や、広告サービスへの活用が目的だ。その一環で利用者の買い物行動圏を推定できるようにした。

クリック率が1.9倍に

 買い物行動圏は、閲覧履歴と店舗の緯度・経度を基に「チラシを日常的に見ている店舗がすべて入るように円を描き、中心点の緯度・経度と半径を利用者ごとに登録する」(メディア事業推進本部メディアマーケティング部の森谷尚平主任)。「この店舗が買い物行動圏に入っている人に広告を出したい」といった広告主の要望に応じて、該当する利用者がSNSやニュースサイトにアクセスしたときに広告を出せるようにした。SNS上に動画広告を出す実証実験では、住所や性別・年齢層といった属性に基づき広告を出す場合に比べてクリック率が1.9倍に高まった。チラシの閲覧という日常の行動に基づくことで、買い物行動圏を正しく推定できていたからだと考えられる。

リアルの買い物エリアを推定して広告に活用
リアルの買い物エリアを推定して広告に活用
画像提供:凸版印刷
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 買い物行動圏の分析サービスはデータ分析企業のDATUM STUDIO(東京・新宿)と共同開発した。買い物行動圏が大きくなり過ぎないように「たまたま別の地域のチラシを見たといった影響が少なくなるようにした」(森谷主任)。チラシを見た店舗すべてが入るように定義すると、実際の行動との差が開く。自宅付近と勤務先付近など複数の小さな買い物行動圏に絞り込むように分析手法を調整した。

 位置情報や購買履歴から人の行動や興味を推測し、それを基に広告やコンテンツを出し分ける取り組みの歴史は長い。チラシの閲覧履歴というデータを活用することで、位置情報を知られたくないと考える利用者のプライバシーに配慮しながら、効率の高い広告を打てる可能性がある。