資生堂は2017年11月8日、米子会社を通じて人工知能(AI)ベンチャーの米ギアランを買収したと発表した。同社が持つAIやAR(拡張現実)の技術を使うと、画面上の人の顔の特徴点を捉えて仮想メークを施したり、逆にメークを落としてすっぴんにしたりできる。
化粧品メーカーとAIベンチャーをつなげたのは情報セキュリティだった。ギアランの前身は米ノースイースタン大学から独立した研究所。そこで創業者兼代表のレイモンド・フー氏はビッグデータ解析を応用した顔認証を研究していた。顔認識の精度を上げるためにメークを取り除く技術を磨いたところ、今のメーキャップ分野への応用につながったという。
ギアラン買収に先立ち、資生堂は2017年1月に米ベンチャーのマッチコーを買収している。同社はスマホアプリで肌の色を判定し、その色にあったファンデーションをオンラインで購入できるサービスを展開する。
ギアランとマッチコーの技術を組み合わせれば、顧客1人ひとりの目鼻立ちや肌の色に即したメークの色味を手軽に提案できる。特徴点の変化や画像の記録を残すのも容易になる。資生堂がITを駆使してメークのパーソナライゼーションを強化しようとしているのは明らかだ。
ITやネット、金融を除けば日本の事業会社によるAI企業買収はまだ少ない。多くは出資や業務提携にとどまる。「AIで何をするか明確でなければ失敗するリスクが高く、買収には覚悟が必要」(アクセンチュアの立花良範デジタルコンサルティング本部統括本部長)だからだ。