情報処理推進機構(IPA)は2017年4月から、新しいセキュリティ国家資格「情報処理安全確保支援士」を開始する。新資格は「講習受講による知識のアップデートが義務付けられる」という、今までの情報処理技術者試験にはない特徴を持つ。「その手間を掛けるメリットがあるのか」「講習受講料(3年間で15万円)を支払う価値はあるのか」と話題になっている。
資格の開始は2017年4月としているが、実際には既に運用が始まっている。やや制度が複雑なので簡単に説明しておこう。情報処理安全確保支援士はペーパーテストに合格するだけでは取得できない。試験合格者がIPAに登録を申請し、資格保持者の一覧表「登録簿」に登録されてはじめて資格取得となる。初回の登録が2017年4月1日なわけだ。
現在は経過措置として、既存の「情報セキュリティスペシャリスト試験」と「テクニカルエンジニア(情報セキュリティ)試験」の合格者を登録対象者として、登録申請を受け付けている段階だ。2016年10月24日から2017年1月31日までに申請し、4月1日の登録を経て晴れて情報処理安全確保支援士となる。なお、2018年10月20日まで経過措置が続き、既存資格合格者は申請して登録されれば情報処理安全確保支援士になれる。
資格取得者に対しては、年1回のオンライン講習(約2万円)と3年に1回の集合講習(8万~9万円)の受講を義務付ける。資格を維持し続けるには、3年間合計で約15万円の講習受講料が掛かる(関連記事:IPAがセキュリティ新資格の取得方法を発表、維持費は3年で15万円)。
迷いが見えるSIベンダー、セキュリティ主要企業
10月24日に既存試験の合格者による登録申請が開始された。11月16日時点の申請数は「約400人」(IPA広報)である。
個人で負担するには高額な講習料であり、所属企業からの支援がないと登録数の大きな増加は見込みにくい。しかし、主要ベンダーで登録申請を推奨しているという企業は現段階では少ない。日経SYSTEMSが独自に主要企業への聞き取り調査を実施したところ、結果は以下の通りだった。
企業名 | 対応方針(登録を社員に推奨するか、維持費を負担するか) |
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NEC | 現在、資格の位置付けや費用負担のあり方について検討中 |
NECソリューションイノベータ | 重要な資格と捉えており、今後の方針は検討中 |
NTTデータ | 現時点では様子見。ただし、試験の合格に関しては、当社グループの社内認定制度におけるIT技術者認定時の必要条件の一部としている。資格登録や資格維持に関わる諸費用への支援制度はないが、試験合格者に対する受験費用支給の支援制度がある |
野村総合研究所(NRIセキュアテクノロジーズを含む) | 登録料や講習料を負担する社内制度の対象にする方向で検討中 |
日立製作所 | 登録の推奨について、現時点では様子見。登録料や講習料の負担は考えていない。従来の情報セキュリティスペシャリスト試験では、合格者に奨励金(一時金)を支給していた。情報処理安全確保支援士も同様に、合格者に奨励金を支給する方向で検討している |
日立システムズ | 現時点では様子見。資格の登録料や資格維持の講習料を負担する人事制度があり、情報処理安全確保支援士を対象にするかは検討中 |
日立ソリューションズ | 対応を検討中 |
富士通 | 全社制度としての登録の推奨は、現時点ではしていない。事業部単位で推奨しているケースはあるかもしれないが、把握はしていない |
三井物産セキュアディレクション | 現時点では対応を検討中。自己学習に年間総額5万円を支援する「自己啓発補助制度」などは利用可能 |
ラック | 登録を推奨する準備を進めている。登録料、講習料を会社が負担する方向で調整中 |
前向きに検討する姿勢を明確にしているのは、野村総合研究所(NRIセキュアテクノロジーズを含む)とラックだ。
野村総合研究所は「社員一人ひとりがプロフェッショナルとしての高い専門性を身に付けることが、収益の源泉になると考えている。その手段の一つとして、資格取得を通じて、社員が高度な知識・技能を習得することを奨励している。情報セキュリティは、これからのNRIグループのビジネスに必須となる分野であると認識しており、情報処理安全確保支援士についても、資格取得を支援する方向で検討中だ」としている。