通信大手3社の2016年4~9月期決算が出そろった。NTTとソフトバンクグループは為替の影響で減収となったが、3社とも増益。モバイル通信料収入の拡大や販売奨励金の削減、光回線の拡販などが好業績につながっている。

表1●通信大手3社の2016年4~9月期連結決算
表1●通信大手3社の2016年4~9月期連結決算
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 増益が目立ったのは、NTTとKDDI。NTTは営業利益が前年同期比26.3%増の9265億円と大幅な伸びを記録した。減価償却方法を定率法から定額法に変更した影響(約840億円の増益効果)が大きいが、これを差し引いても1000億円以上の増益となる。NTTドコモは携帯電話や光回線の通信料収入が順調に伸びたほか、NTT東西も光回線の卸提供「光コラボレーションモデル」への移行による営業費用の削減で増益が著しい。

 KDDIも営業利益が前年同期比18.0%増の5326億円と大幅に拡大した。通信ARPA(アカウント当たり月間平均収入)が順調に伸びており、7~9月期は同140円増の5840円(パーソナルセグメント)だった。通期予想の5730円を大きく上回るペースで進捗している。コンテンツなどのサービスで構成する付加価値ARPAも同70円増の500円と好調。販売奨励金をはじめとした端末販売コストの削減も通期で560億円を見込んでいたが、4~9月期実績で340億円と大幅に上振れしているという。

表2●携帯電話大手3社の主な指標比較 契約数と契約数シェアは2016年9月末時点、それ以外は2016年7~9月期の実績。カッコ内は前年同期比
表2●携帯電話大手3社の主な指標比較 契約数と契約数シェアは2016年9月末時点、それ以外は2016年7~9月期の実績。カッコ内は前年同期比
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 ソフトバンクグループの営業利益は前年同期比3.5%増の6539億円だった。前年同期にアスクル子会社化に伴う一時益を計上したヤフーは大幅な減益を記録したが、国内通信事業(ソフトバンク)は同9.4%増の4659億円と順調。光回線「SoftBank 光」や格安スマホ「Y!mobile」の拡販で販促費は同6.6%増(約34億円)となる一方、販売手数料は同12.6%減(約220億円)も削減できた。米スプリントの携帯電話事業も同28.5%増の増益(連結後)。ソフトバンクグループの孫正義社長は「今後はスプリントが利益の成長エンジンになる」と鼻息が荒い。

格安スマホの影響がじわり

 各社とも総じて好調とはいえ、主力の携帯電話事業では格安スマホの影響が目立ってきた。中でも強い危機感を示すのはKDDI(au)。同社の田中孝司社長は2016年11月1日の決算説明会で「(格安スマホを展開する)MVNO(仮想移動体通信事業者)への流出が起こっているため、契約者数は実質的にマイナス傾向にある」とした。7~9月期は64万7000件の純増数を獲得したにもかかわらず、どういうことか。

写真1●2016年4~9月期連結決算を発表するKDDIの田中孝司社長
写真1●2016年4~9月期連結決算を発表するKDDIの田中孝司社長
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 実は、同社が公表するパーソナルセグメント(国内の個人向け事業)の「通信ARPA収入」を「通信ARPA」で割り戻すと、意外な実情が浮かび上がってくる。契約数は順調に伸びているものの、これには複数台利用も多分に含まれる。そこで上記の割り戻しにより、ARPA算出の基準となっている契約者数(ID数)を算出してみるわけだ。すると、2016年以降はID数が目減りしていることが分かる。「実質的にマイナス傾向」とはこのことを意味しており、看過できない兆候である。

表3●KDDI(au)のパーソナルセグメントにおける主な指標の推移 2016年以降はID数が目減りしている
表3●KDDI(au)のパーソナルセグメントにおける主な指標の推移 2016年以降はID数が目減りしている
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 パーソナルセグメントに関しては、純増数も失速が著しい。四半期ごとの純増数を見ると、au全体は50万~70万件で推移しているが、パーソナルセグメントは7~9月期に11万8000件まで落ち込んだ。同社はかつて、「MNP(モバイル番号ポータビリティー)純増 No.1」をうたっていたが、2016年2月以降は旗を降ろした。総務省が端末販売の適正化を要請したためだ。それまではキャッシュバックをうまく活用して純増数を稼いでいたが、もはやできなくなってしまった影響が大きい。

図1●KDDI(au)全体ならびにパーソナルセグメントにおける純増数の推移
図1●KDDI(au)全体ならびにパーソナルセグメントにおける純増数の推移
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 実際、販売代理店に聞くと、「新規契約と乗り換え(MNP)はすっかり取れなくなった」という。このため、既存顧客にダイレクトメール(DM)を発送。来店した顧客に機種変更を促すほか、タブレット端末を推奨することで販売台数を維持している。MNPは転出超過で終わる月も少なくないようだ。

 キャッシュバックという得意技を封じられた以上、今後は端末や料金、サービスなどで勝負するしかない。ただ、総務省が「大手3社の協調的寡占」と指摘する通り、新しい施策を出しても即座に追随されて横並びとなる。他社の顧客に乗り換えを促すほどの差異化を生み出すのは至難の業である。IDの拡大については当面、傘下のUQコミュニケーションズが提供する格安スマホ「UQ mobile」のテコ入れで対処するしかないような状況となっている。UQ mobileへの移行が進めばARPAの低下を招く恐れがあるが、物販や保険、電気といったサービス展開による「au経済圏」の拡大により、囲い込みの強化と持続的な成長を図っていく構えだ。

 こうした状況はソフトバンクも同じ。同社は「Y!mobile」ブランドで格安スマホ対抗にいち早く取り組んできた経緯があり、2016年度のスマートフォンの新規販売目標300万台のうち、Y!mobileで前年度比2倍の130万台を目指す。「Y!mobileへのポートアウトが多い」(NTTドコモ幹部)と競合他社も警戒するほど好調だが、ARPU(契約当たり月間平均収入)低下の影響も出ている。7~9月期の通信ARPU(主要回線)は前年同期比170円減の4020円だった。光回線の拡販でセット割の対象が広がっている影響も大きく、今後はさらなる低下が懸念されそうだ。

図2●ソフトバンクの通信ARPU(主要回線)の推移
図2●ソフトバンクの通信ARPU(主要回線)の推移
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 もっとも、ソフトバンクグループの孫社長は「金融系やコンテンツ系など様々なサービスを付加していくことで、顧客当たりのトータルの収益はまだまだ増やせる」と心配していない。最近では約240億ポンド(約3兆3000億円、発表当時)を投じて英ARM Holdingsの買収を決めただけでなく、サウジアラビアのパブリック・インベストメント・ファンドなどと組み、10兆円規模の「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」を設立するとも発表した。もはや競合他社とは次元の異なる成長を目指しており、国内通信事業のARPU低下は取るに足りない余計な心配なのかもしれない。

 最後にNTTドコモも格安スマホの影響がないわけではない。ただ、MVNOの大半はNTTドコモの回線を活用しており、貸し出し料金(接続料)の収入を得られるため、他社に比べてダメージは小さいと言える。7~9月期の解約率も0.53%と驚異的な低水準を維持しており、この状況を維持しつつ、コンテンツや金融・決済といった付加価値サービスの収入をいかに拡大できるかが当面の注目となる。