国内ITベンダーが、AI(人工知能)技術の積極アピールに乗り出した()。社内の技術を掘り起こし、体系化・ブランド化することで、先行する米IBM「Watson」などを追撃する。

表●国内ITベンダーが2015年下半期に公表したAI関連ビジネスの施策
表●国内ITベンダーが2015年下半期に公表したAI関連ビジネスの施策
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 これまで「クラウド」「ビッグデータ」といった言葉で技術やサービスを体系化・ブランド化する試みはあったが、必ずしも言葉の定義が明瞭とはいえず、会社ごとに事業領域に大きな違いがあった。

 「人工知能」という言葉も極めて幅が広いが、上記のワードと比較すれば、まだ明瞭といえる。各社ごとにわずかな違いはあれ、自然言語処理、画像・音声認識、予測分析、機械学習など、学問領域でいう人工知能(Artificial Intelligence)の範囲を指している点は共通している。

人工知能(Artificial Intelligence)という言葉が初めて使われたのは1955年、計算機科学者のジョン・マッカーシー氏が、翌年に開催する研究発表会(ダートマス会議)の提案書の中で命名したとされる。提案書の中でマッカーシー氏は、人工知能を「コンピュータが言葉を使う、抽象や概念を形成する、現状では人間にしか解けない問題を解く、自ら学習する」と表現している。

 NTTグループ、NEC、富士通、日立製作所、東芝といった国内の大手ITベンダーは、第五世代コンピュータプロジェクトが始まった1980年代ごろから、自然言語処理、画像・音声認識、機械学習といった人工知能関連の技術を蓄積してきた。今も、当時を知る研究者を含めて各社は3ケタの単位でAI研究者を内部に抱えており、研究者の不足に悩む他の企業にとっては垂涎の的だ。

 例えばNECの場合、AI研究者はNEC北米拠点の約30人、日本の約100人を含め、世界4拠点に計150人のAI研究者を抱える。

 NECが開発しているAI技術のうち、異常を検知する「インバリアント分析」や機械学習のソフトウエア製品「RAPID機械学習」は主に米国拠点が開発、「異種混合学習」は日米合同のチームが、顔認証は日本拠点が開発している。「学会発表向けではなく、顧客が実際に抱えている問題を解決するためにAI技術を磨いたのがNECの強み」と、同社の江村克己執行役員は語る。

 同社は、この150人を含めた約500人のAI関連事業の要員数を、2020年度までに約1000人に倍増させる考えで、研究者も増員する。直近の年間売上高300億円ほどというAI関連事業の規模を拡大し、2020年度までの6年間で累計2500億円を売り上げる計画だ。

AIビジネスの価格破壊が進む

 こうした長年の蓄積をアピールする国内ITベンダー各社のAIビジネスだが、懸念もある。AIの高度なノウハウを組み込んだクラウドサービスやオープンソースソフト(OSS)が相次ぎ登場し、AIビジネスへの参入障壁が下がっていることだ。