成長が続くMVNO市場だが、ここに来て携帯電話大手3社による、格安スマホ“包囲網”が激しさを増している。KDDI(au)のサブブランド的な位置づけが目立ってきたUQ mobileが新端末の投入や店舗拡大で攻勢をかける。NTTドコモもフィーチャーフォンユーザーの流出に歯止めをかけるべく、次々と施策を打ち出している。

 総務省調べによるMVNOの契約数(MNOを除く)は2016年6月末時点で1346万。対前年比33.7%増と、この1年で大きく飛躍を遂げた。モバイル全体に占めるMVNOの比率も8.2%まで拡大。総務省が2014年10月に公表した「モバイル創生プラン」で掲げた「2016年中にMVNOの契約数を約1500万」という目標も、現在の勢いからほぼ達成が見えてきた。

写真1●「(MVNOの新規の)3分の1のシェアを取りたい」と、周回遅れを自認していた状況からの反転に向けて意気込むUQ mobile
写真1●「(MVNOの新規の)3分の1のシェアを取りたい」と、周回遅れを自認していた状況からの反転に向けて意気込むUQ mobile
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 一方、携帯電話大手3社もここに来て、格安スマホへのユーザーの流出に歯止めをかけるべく対策に本腰を入れ始めている。NTTドコモ系MVNOへの顧客流出が止まらなくなっているKDDI(au)とソフトバンクは、UQ mobile、Y!mobileをサブブランドとして、月1980円からのキャンペーン料金や、旧型iPhoneの投入など、なりふり構わない顧客獲得に乗り出している。

 例えばUQ mobileは10月24日に開催した秋冬モデル発表会で新端末を4機種投入。1回5分以内の国内音声通話がかけ放題となる音声定額プランも2017年2月に始めるなど、一気に攻勢に出てきた。同社の野坂章雄社長は「(MVNOの新規の)3分の1のシェアを取りたい」と、周回遅れを自認していた状況からの反転に向けて意気込む。なおY!mobileも同日、これまで月300回まで無料としていた音声定額の制限を、2017年2月から撤廃すると発表。Y!mobileとUQ mobile間の競争も激しくなっている。

 MVNOとの蜜月関係も目立っていたNTTドコモも、10月19日の秋冬モデルの発表会で、立て続けに格安スマホ対策となる施策を投入した。月1800円から利用できるLTE版ケータイ向けの新料金プランや、本体の一括購入価格が648円というドコモオリジナルブランドの廉価スマホ「MONO」だ。

 ドコモの狙いは、フィーチャーフォンユーザーの囲い込み。同社の幹部は「Y!mobileの1980円プランは、当社のフィーチャーフォンユーザーを狙い打ちしたもの」とし、顧客流出への危機感を示していた。これまではフィーチャーフォンからスマホへと移行する場合、NTTドコモの最安値プランに加入したケースでも合計で月4500円程度かかっていた。LTE版ケータイ向け新料金は、月1800円から利用できるという格安感を演出し、顧客流出に歯止めをかける。KDDIやソフトバンクも即座に同様のプランを投入したことで、MVNO市場にも打撃を与えそうだ。

 総務省は今後、さらにMVNOを後押しする施策を投入する見込み。現在開催中の「モバイルサービスの提供条件・フォローアップ会合」では、取りまとめの方向性として「料金の低廉化は、大手携帯電話事業者とMVNOの公正な競争を加速させていくことが効果的」という方針が打ち出されている。SIMロック解除制限の短縮や接続料の適正化などの施策の登場が濃厚だ。

 総務省の狙いは、今やICTインフラと化したスマホを低廉に利用できる環境を整えること。MVNOは料金低廉化を実現する手段であり、MVNOの育成が第一目的ではない。つまり携帯電話大手3社の料金低廉化でも総務省の目的は達成できる。この先さらなる焦土戦も予感させる。