「ハワイ島で有名な食べ物は?」「ハワイ島の料理はロコモコ、マラサダ、ポケ丼、パンケーキ、アサイーボウルなどが人気だよ。マカナはココナッツクリームが入った、ふわっふわのマラサダがお気に入り」――。

 日本航空(JAL)が提供する、顧客からのハワイに関する質問に答えるチャットボット「マカナちゃん」のやり取りだ。JALはマカナちゃんを日本IBMの人工知能(AI)である「IBM Watson」を使って開発し、第1弾を2016年12月から2カ月間提供していた。現在は第2弾として2017年7月から2018年3月までサービスを提供している。第2弾では第1弾の取り組みの経験を生かし、改良した。

ハワイに関する質問にチャット形式で答えてくれる「マカナちゃん」(スマートフォンでの利用イメージ)
ハワイに関する質問にチャット形式で答えてくれる「マカナちゃん」(スマートフォンでの利用イメージ)
(出典:日本航空)
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 マカナちゃんを提供するのはJALのWeb販売部。JALの中で一番最初に人工知能(AI)に取り組んだ部署で、整備部門といった業務改善にAI活用を検討する他部署からの問い合わせも多いという。Web販売部の取り組みから、AIチャットボットを「育てる」うえでの工夫や軌跡を見ていく。

「赤ちゃんを育てるのと似ている」

 JALは第1弾でターゲットを「赤ちゃん連れでハワイ旅行を検討している顧客」に絞り、不安や疑問に答えるチャットボットとして提供した。「赤ちゃんが飛行機の中で泣いたらどうしたらいいの?」「現地でベビーカーは調達できるか」など、機内や旅行中での疑問を想定したという。WatsonのAPI(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)の1つである「Conversation(会話機能)」を使って開発した。

 「AIの育て方は、赤ちゃんを育てるのと似ている」。Web販売部Web・コールセンター企画グループでマカナちゃんの開発に携わる岡本昂之主任はこう振り返る。AIに想定質問やそれに対する答えを学習させる開発チームは6人。「お母さんチーム」と呼んでいるという。

日本航空の岡本昂之Web販売部 Web ・コールセンター企画グループ主任
日本航空の岡本昂之Web販売部 Web ・コールセンター企画グループ主任
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 赤ちゃんを育てるのに似ているという理由は、AIに一度に言葉を学習させようとしても、「混乱したり、こちらの問いかけに対して間違った回答をしたりしてしまう」(岡本主任)ためだ。試行錯誤でこうした事実が見えてきたため、教育の仕方も工夫した。「『いったんここまで覚えさせてから次のステージに進む』など、段階を踏んで慎重に教えていくようにした」(同)。

 第1弾で利用者にアンケートを取ったところ、満足度は8割を超えたという。「AIチャットボットの応答スピードや精度を担保するには、人からAIへの“教育”が重要」と岡本主任は話す。サービス提供前と提供後、それぞれでAIチャットボットを教育したという。

 サービス提供前の教育で、お母さんチームはまず最初に想定質問と回答を列挙した。チャットボットを開発する際に一般的な手法である「リストアップ」と呼ぶものだ。

 赤ちゃん連れでハワイ旅行を検討している顧客が疑問に感じるであろう質問(想定質問)とそれに対応する答え(アンサー)を、JALのコールセンタースタッフの意見やWeb上のFAQなどを基に1000通りほど選出。内容を吟味して、区分け・分類したうえで、重要度の高そうな順から100セットの想定質問とアンサーを選んだ。「まずは、重要度の高い100個のアンサーを確実に答えられるようにAIを教育した」と岡本主任は説明する。