「小さくても成功を積み重ね、その成果を継続的に経営層と現場の担当者に提示して、信頼を得ることが重要」――。良品計画のWEB事業部でデジタルマーケティングを担当する浜野幸介氏は2016年10月19日、目黒雅叙園(東京・目黒)で開催した「第4回イノベーターズセミナー」(日経ITイノベーターズ主催)に登壇し、事業創出や顧客開拓を進める際の要点をこう述べた。浜野氏は「経営にインパクトを与える企画をやりぬくには?~MUJI passportを例に」と題して講演した。

「第4回イノベーターズセミナー」で講演する良品計画WEB事業部の浜野幸介氏
「第4回イノベーターズセミナー」で講演する良品計画WEB事業部の浜野幸介氏
(撮影:井上 裕康)
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 講演タイトル中の「MUJI passport」とは無印良品の顧客向けスマホアプリ。会員証やポイント管理、在庫検索、店舗検索、無印良品のニュース閲覧などの機能を持つ。浜野氏はMUJI passportの企画・開発に携わり、現在はMUJI passportから得たデータ利用した顧客分析や販促企画などを手掛けている。

 MUJI passportを導入して店舗の収益拡大に貢献するには、MUJI passportで得たデータを社内でフル活用するための体制や環境の整備が欠かせない。そこで浜野氏が重視したのが、導入効果を社内の様々な部署に粘り強く提示し続けることだった。「『言わなくても分かる』とは思わず、相手の視点で喜んでもらえることを探した」(浜野氏)。

 導入直後は「アドホックに分析し、導入効果を現場に示した」という浜野氏。例えば、MUJI passportをダウンロードした特典で付与したポイントを実際に何割のユーザーが店舗で利用したか、2日間有効なポイントをサプライズで付与した場合にどれだけの集客効果があったか、などを数値で公表した。

 すると、社内の各部署から「もっとこんな分析をしてほしい」との依頼が寄せられた。浜野氏はその都度、アドホックに分析して結果を提示し、さらに有効な分析についてはツール化して各部署に公開。例えば、商品部には「どの商品がどのような顧客層に売れているか」がグラフで分かるようなツールを提供し、店舗開発者にはアプリの使用状況から商圏を分析するツールを作ったという。

 店長や経営層には定形レポートを作成。店長にはその店舗の顧客動向を示し、経営層には自社の顧客の大まかな傾向となぜそのような傾向になっているかが分かるようにした。

 導入成果を社内に継続的に訴え続けたことで、MUJI passportが店舗への送客に役立つとの認識が店舗の担当者にも浸透し、「店頭レジでMUJI passportのインストールと提示を促す“ひと声掛け”が徹底された」(浜野氏)。結果、店頭レジで顧客がMUJI passportを提示する割合は上昇し続けているという。

 会員数は増加を続け、開始から約3年半で500万人を超えた。こうしてMUJI passportは、当初想定していた店舗への送客効果を実現するだけでなく、同社のオムニチャネル戦略を支える基盤になったという。