「IoT分野は、米アマゾン・ドット・コムのように、デバイスやネットワークを無料に近づけて、プラットフォームで稼ぐモデルに極めて近くなる」――。LPWA(Low Power Wide Area)ネットワーク技術の一つ「LoRaWAN」を使ったIoTソリューションを2016年度中に提供するソフトバンクの担当者はこのように指摘する。

 企業でIoTへの関心が高まっているものの、多くの場合で通信コストが障壁となる。LTEのモジュール代だけで数千円、通信費用が月額300円程度に抑えられたとしても、10年単位で使うことが多いIoT分野の利用では、トータルコストは数万円に跳ね上がる。

 IoTの取り組みには通信は不可欠。しかし企業ユーザーにとって、通信そのものは価値を生まず、単なる伝送コストとして見なされる。センサーによって取得したデータを“見える化”したり、見える化したデータを使って業務効率化につなげるなどして、初めて価値が生まれる。

 だからこそ冒頭のソフトバンクの担当者の発言のように、IoT分野でサービス提供する際には、通信を“隠蔽”し、プラットフォームなど価値を生む部分で課金する形が適している。実際、ソフトバンクはLoRaWANを展開するものの通信単体でのサービス提供を考えていない。プラットフォームを含めたエンドツーエンドのサービス全体で課金したい考えを見せる。

写真1●通信の存在を隠蔽し、通信モジュールの価格に2年間の通信料金を含めたさくらインターネットの「さくらのIoT Platform」
写真1●通信の存在を隠蔽し、通信モジュールの価格に2年間の通信料金を含めたさくらインターネットの「さくらのIoT Platform」
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 IoT分野で通信の存在を完全に消し去るようなサービスも登場している。さくらインターネットが11月からβ版としての提供開始するIoTプラットフォーム「さくらのIoT Platform」だ(写真1)。

 さくらのIoT Platformは、通信環境からデータの保存、処理に必要なシステムを一体提供し、「通信からデータ連携までを隠蔽する」(山口亮介IoT事業推進室長)。IoT通信に適したLTE Cat-1の通信モジュールを採用し、ソフトバンクとレイヤー2接続。ソフトバンクをMNOとするMVNOとなり、通信モジュールと通信料金、IoTプラットフォームを一体化した。通信モジュール1台当たりの価格は9960円(キャンペーン価格として4980円)であり、この価格の中に2年間、100万回のデータ送受信が可能な通信料金を含めている。障壁となることが多い通信コストを、完全に“隠蔽”した形だ。

 さくらのIoT Platformの通信モジュールは単なるパーツではなく、プラットフォームのエッジとして機能する仕組みを埋め込んだ点も特徴だろう。具体的には通信モジュールにプロトコルスタックを作り込んでおり、プラットフォームやクラウドへつなぎやすくした。

 海外でも同様の動きが見られる。例えば米ベライゾンは9月、米クアルコムと共同でIoT分野を対象としたクアルコム製のモデムチップの上にミドルウエアを載せ、ベライゾンのクラウドサービスとつなぎやすくするような取り組みを発表している。通信の存在を隠蔽し、モジュールレベルでクラウドやプラットフォームへ繋ぎ込む仕組みを作るという、IoT時代の新たなスタンダードが生まれつつある。