2017年9月29日にITproに掲載したニュース解説「失敗の全責任はユーザー側に、旭川医大とNTT東の裁判で逆転判決」が読者の大きな反響を呼んだ。旭川医科大学とNTT東日本がシステム開発の失敗を巡り裁判に至るまでの詳細については、日経コンピュータが2010年に報じている。

 その記事のタイトルは、「旭川医科大学 基幹系再構築の契約を打ち切り、NTT東が23億円の賠償請求」。日経コンピュータ2010年10月13日号「動かないコンピュータ」の内容を全文公開する。




 旭川医科大学が2010年8月26日、基幹系システムの開発委託先であるNTT東日本に訴えられた。旭川医大が新システムを導入せずに契約を解除したため、NTT東日本が損害賠償を求めた。その賠償金額は23億6988万円という大型のシステム関連訴訟である。

 旭川医大とNTT東日本の火種となっているのは、「病院情報管理システム」だ。旭川医科大学病院の基幹系システムで、会計事務や電子カルテ、再来受付など22のサブシステムからなる。

 当初、病院情報管理システムの開発はNTT東日本が担当し、2009年9月に稼働させる予定だった。ところが開発プロジェクトが不調に陥り、新システムはいまだに動いていない。旭川医大はNTT東日本とリース契約を結び、新システムを利用する予定だったが、その契約を10年4月に解除した()。

表●旭川医科大学とNTT東日本がシステム関連訴訟に至った経緯
表●旭川医科大学とNTT東日本がシステム関連訴訟に至った経緯
[画像のクリックで拡大表示]

 この結果、NTT東日本はシステム開発の費用を受け取ることができなくなり、東京地方裁判所に提訴した。NTT東日本は、プロジェクトが不調に陥った責任は、「自社にはない」と主張。システム開発費などに相当する、23億6988万3110円を求めている。

訴訟前に“データ消去問題”

 この8月26日の提訴に先立ち、旭川医大にも動きがあった。旭川医大の吉田晃敏学長が8月12日に記者会見を開き、“データ消去問題”でNTT東日本に抗議したことを明らかにした。「NTT東日本が撤去したサーバーから、患者31万人の個人データが漏洩する可能性がある。データを完全に消去したことを証明する書類を提出するよう、NTT東日本に求めている」。

 NTT東日本が撤去したサーバーとは、開発を中止した病院情報管理システムを動かすためのものである。10年6月まで旭川医大病院内に設置しており、NTT東日本が所有していた。

 09年4月の契約解除に伴い、旭川医大がNTT東日本にサーバ ーの撤去を依頼し、NTT東日本がこれに応じた。ところが旭川医大は、NTT東日本の6月25日の撤去作業で「患者データを完全に消去したかどうかの確証が持てない」としている。

 これに対しNTT東日本は、「データを病院内で消去してから、サ ーバーを院外に撤去した。このことは作業報告書で提出済みである」と反論している。

 病院情報管理システムに関して、旭川医大とNTT東日本の信頼関係は崩れてしまっている。なぜこのような事態に陥ったのか。

 その発端は、システム再構築プロジェクトにある。途中からプロジェクトの進捗状況が悪化していたことが、今日のトラブルに発展したようである。旭川医大とNTT東日本ともに「係争中のため、現時点ではコメントできない」とするが、訴訟資料を基にこれまでの経緯を見ていく。