IoT(Internet of Things)向けの格安通信サービスが登場する。ベンチャー企業のソラコムが、機器に取り付けるSIMとデータ通信処理から成るサービスを開発。IoTのデータ処理をクラウド上で実施することにより、低価格で多様な通信サービスを実現した。通信料は使った分だけ。従来の携帯電話回線に比べ、8割ほど安くなる。暗号化など機器側で実施していた処理をクラウドで肩代わりして、柔軟に機能を拡張することも可能。IoT導入のハードルが大きく下がりそうだ。

 「IoT活用の最大の課題は通信。これまではIoTの機器をつなぐのに、人間向けの高価な通信サービスを使っていた。クラウドを全面的に採用し、機器に最適な通信サービスを提供する」。ソラコムの玉川憲社長は、こう意義を語る(写真1)。玉川社長はアマゾン データ サービス ジャパンでクラウドのエバンジェリストを務めていた。

写真1●「これまでのIoT向けサービスにはインターネットとモノをつなぐ『of』が欠けていた」と玉川社長
写真1●「これまでのIoT向けサービスにはインターネットとモノをつなぐ『of』が欠けていた」と玉川社長
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 ソラコムが2015年9月30日に提供を始めたのが、IoT機器向けの格安通信サービス「SORACOM Air」。機器に取り付けるSIM、データ通信サービス、Webブラウザーを使ったSIMの管理システムから成る。ソラコムがMVNO(仮想移動体通信事業者)となり、NTTドコモの携帯電話回線を借りてサービスを提供する。

 通信料金の体系はデータ通信量に応じた従量課金制。データ転送量1メガバイト当たり0.2円から(SIMの基本使用料が1枚当たり1日10円)。1メガバイト当たり0.2円であれば、1カ月に1ギガバイト使ったとしても通信料金は200円程度だ。MVNOによる格安スマートフォン向けSIMを使った既存通信サービスの2~3割で済む。

 通信の開始や終了、通信速度、通信時間帯などを利用企業が自由に設定できることも、通信料金の低減につながる特徴だ(画面)。1回当たりのデータ量が少ない機器には通信速度を低めに設定する、昼間に蓄積した監視カメラの画像データを夜間に一括して送信するなど、「機器や利用するシステムの特性、利用期間に合わせて柔軟な運用が可能だ」(玉川社長)。

画面●SIMの通信量や通信速度を管理できる
画面●SIMの通信量や通信速度を管理できる
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 通信料金を格安にできたのは、IoT機器から集めたデータ処理などを担うシステムを全てクラウド上に構築したため。具体的にはパケット交換や帯域制御、顧客情報管理、課金管理などだ。IoT機器から集まるデータは急激に増減することが多く、オンプレミスのデータセンターを使うとシステムの処理能力の過不足が起こりやすい。

 データ処理システムをクラウド上に構築することで、同社は通信サービスを提供するために必要な初期投資を低減。通信量の増減や利用期間に応じた料金体系も実現できた。

「期間限定」「○○だけ」用途に最適

 新サービスを試験利用した1社がリクルートライフスタイルだ。用途は同社が提供するタブレット用POS(販売時点情報管理)システム「Airレジ」のデータ通信。東京・六本木で今夏に約1カ月間開催したイベントで、同レジを使った。期間限定のイベントに臨時店舗を出したり、ある時間帯だけ来店客が増えたりしたときに、回線や通信速度を柔軟に増やせる点が効果的だったという。