日経BPイノベーションICT研究所と日経コンピュータが主催の「日経BPアジアICTカンファレンス2016 in バンコク」が2016年9月7日に開催された。同カンファレンスは、ASEAN(東南アジア諸国連合)に進出している日系企業を対象に、現地の経済動向やICTのソリューションを紹介するもので、バンコクでの開催は3回目。タイは、製造業を中心に流通業、金融業など大手から中堅まで数多くの日本企業が進出している。今回のテーマは「ASEAN経済共同体(AEC)発足で、さらに加速するアジアビジネス」である。

 冒頭の基調講演に登壇したのは、チュラロンコン大学サシン経営管理大学院チュラロンコン大学日本センター所長の藤岡資正氏(写真1)。「メコン地域の可能性と日本企業」と題して講演した。チュラロンコン大学はタイのトップ大学であり、藤岡氏は名古屋商科大学客員教授と早稲田大学客員准教授も兼任している。

写真1●チュラロンコン大学経営管理大学院チュラロンコン大学日本センサーの藤岡資正所長
写真1●チュラロンコン大学経営管理大学院チュラロンコン大学日本センサーの藤岡資正所長
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タイ単独ではなくメコン地域を面でとらえることが重要に

 2010年から2015年までに世界のGDPは60%成長したが、その大きな原動力はタイをはじめとする新興国である。しかしタイは今、「中所得国の罠」に陥っていると指摘する。中所得国の罠とは、安価な労働力などを頼みに経済成長を達成したアジアの中所得国の成長が鈍化し、高所得国への移行が困難になるというもの。タイに限らずメコン地域の国々は今後、この問題と戦っていかなければならないという。

 タイは2025年に少子高齢化社会を迎える。これまで外資の誘致と豊富な労働力で発展してきたが、今後は産業の高度化が重要になる。日本企業のとらえ方もこれまでは、タイに工場を移転し、日本で作っていたものを安く作ることが中心だった。日本人が工場長として赴任し、“正しいものづくり”をタイの技術者に正しく指導する。そして製品を日本、ヨーロッパ、米国に輸出するというモデルである。その結果、タイは製造業の一大集積地域になった。

 今後、タイはメコン地域の諸国(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)と協力し、相互補完的な関係を築きながら産業構造の転換を図っていく必要がある。日本企業はメコン地域を面でとらえ、タイに拠点を置きつつ、労働集約的な製造過程を周辺国に移管する「タイ+1」の戦略を考えるべきだと藤岡氏は強調した。

 メコン地域諸国はタイもそうだが「リープフロッグ(カエル跳び)現象」が見られる。これは先進国のたどった発展段階を省いて最新技術の恩恵を受ける現象で、例えば固定電話を飛び越えていきなり携帯電話がものすごい勢いで普及している。今、IoTが注目されているが、IoTも一気に広がる可能性がある。実際、調査会社のIDCは、IoTの世界市場は年平均16.9%ペースで成長し、2020年には1.7兆ドル規模になるが、アジア太平洋地域はその倍のペースで成長すると予測している。

 一方で、日本が直面している少子高齢化や急速に進む都市化などの課題は、メコン地域も早晩直面する。日本企業は“課題先進国”の利点を生かし、技術を高めて解決策を磨けば、それを輸出することでタイムマシン経営が可能になる。メコン地域をめぐる企業経営は製品・サービスをめぐる競争から価値共創をめぐる競争へと移っていくと藤岡氏は結んだ。