「システム開発期間が3カ月しかなかったので、通常の開発手法では間に合わなかった」。東京急行電鉄(東急電鉄) 経営企画室企画部イノベーション推進課の野崎大裕氏は、新規事業として立ち上げた法人向けのサテライトシェアオフィス事業「NewWork」のシステム構築を振り返り、こう語る(写真1)。

写真1●東京急行電鉄 経営企画室企画部イノベーション推進課の野崎大裕氏(左)と、システム構築を手掛けたアールスリーインスティテュートの金春利幸Chief Innovation Officer
写真1●東京急行電鉄 経営企画室企画部イノベーション推進課の野崎大裕氏(左)と、システム構築を手掛けたアールスリーインスティテュートの金春利幸Chief Innovation Officer
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 同社はサイボウズのPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)である「kintone」や、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)などのパブリッククラウドサービスを使うことで、初期費用を抑えながら必要なシステムを約3カ月で構築した。野崎氏によると2016年9月時点で「約20社がNewWorkを活用しており、利用ID数は4000強になる」という。2016年9月中にはクレジットカードによる決済機能の開発も始める予定だ。

 東急電鉄のように、パブリッククラウドサービスを駆使して短期間でシステムを構築する企業が増えている。東急電鉄が採用したのはクラウドインテグレーターが実際のシステム画面を見せながら、その場で開発や改修をする「対面開発」と呼ぶ手法だ。システム開発の経験がなかった野崎氏にとって、「目の前でシステムの画面を見ながら改善できるのはやりやすかった」という。

 システム構成の一部には仮想サーバーを使わない「サーバーレス」や、一つのアプリケーションを独立した複数のサービスの組み合わせで構築する「マイクロサービス」といったソフトウエアの新しいアーキテクチャーを積極的に取り入れている。

 同社がNewWorkを開始したのは2016年5月20日のこと。NewWorkは完全会員制のサテライトシェアオフィスサービスで、会員企業には専用の非接触ICカードを配布する。東急線沿線を中心に直営店を自由が丘、横浜、二子玉川、たまプラーザ、吉祥寺に展開している。直営店のオフィスには無線LANや複合機を設置。会議室や電話用のスペースも用意する(写真2)。

 基本料金は従量制と定額制のいずれかを選ぶ。契約企業の多数が選ぶのは従量制。月額5000円で8時間まで自由に利用でき、それ以降は1時間当たり500円だ。定額制は月額3万円で使い放題となる。

写真2●自由が丘にあるNewWork直営店
写真2●自由が丘にあるNewWork直営店
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ICカードとシステム化で無人運営

 NewWorkは東急が2015年4月に始めた社内起業家育成制度の採用第一号だ。新規事業で予算が限られていたため、直営店には受付窓口や担当者を設けず、出入り口にICカードをかざすリーダーを設置する方式を採用した(写真3)。「印刷用紙の補充や巡回などの目的で契約社員を1人雇っているが、基本的には無人で運営している」(野崎氏)。

写真3●出入り口に設置したカードリーダーに非接触ICカードをかざして入退室する
写真3●出入り口に設置したカードリーダーに非接触ICカードをかざして入退室する
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