写真1●「IoTやAIによって人間社会はどう変わるのか?」が議論されたICC KYOTO 2016
写真1●「IoTやAIによって人間社会はどう変わるのか?」が議論されたICC KYOTO 2016
[画像のクリックで拡大表示]

 「IoTやAIによって人間社会はどう変わるのか?」。こんな興味深いテーマを学術やビジネスの第一線にいる専門家が議論したのが、2016年9月6日と7日に行われたイベント「ICC(INDUSTRY CO-CREATION)KYOTO 2016」の1セッションだ(写真1)。

 この問いに対して、2016年3月に話題になった、囲碁AI(人工知能)「AlphaGo(アルファ碁)」と韓国のプロ棋士イ・セドル氏の対局を持ち出したのは、日立製作所 研究開発グループ技師長 兼 人工知能ラボラトリ長の矢野和男氏だ。

 この対局では、AlphaGoの4勝に対してセドル氏は1勝にとどまったのだが、この結果について矢野氏は「“AIが人間に勝った”とは、絶対に言うべきではない」とする。今回の対戦は、AlphaGoというソフトウエア、そしてそれを動かすコンピュータのみならず、AlphaGoの開発に携わるDeepMindの研究者と実装者、さらには過去のデータを含めた集団と、セドル氏個人との戦いであって、これまでの1人の頭脳と肉体と経験同士を戦わせる対局とは別物であるということだ。矢野氏は、AlphaGoの論文には20人が名を連ねており、対局には500人を下らない人たちがかかわっているとみている。業界内の競争に、突如として別の業界から別の手段を携えた参入者が現れたということもできるだろう。

 この発言に強く同意したのが、筑波大学助教でメディアアーティストの落合陽一氏だ。同氏が囲碁の対局に近い話として紹介したのが、講師として参加したワークショップ。このワークショップでは、平均年齢が15歳の参加者たちが「あるジェスチャーを、デジタル・コミュニケーションを使って行動認識させるシステム」をわずか3日で作り上げた。これは「5年前まであれば修士論文で扱うレベルのもの」(落合氏)だという。

 落合氏によれば、これが可能になったのは、「あらゆるソースコードがコピーされ、クラウドサービスが小学生でも扱えるくらいに簡易になったおかげ」という。囲碁と共通するのは、ある個人の成果が、コンピュータおよび世界中の研究者で構成される集合体の力にあっという間に追い越されるということだ。

 矢野氏は、この事例を引き合いに出して、「AIが仕事を奪うのではない。むしろ、新しい対局を通じて500人の仕事を生み出している」とした。落合氏は、こうした状況下では「学び方が大きく変わりそうだ。ずっと学び続ける必要がある」と述べた。