伊藤忠商事は2020年度に基幹システムを刷新して稼働させる。主に経理部門や財務部門が使う独SAPのERP(統合基幹業務システム)パッケージを2018年度までに新版の「SAP S/4HANA」にバージョンアップ。その後2年かけて業務面の改善を加えて本稼働させる。CIO(最高情報責任者)補佐兼IT企画部長の渡辺一郎氏は、開発費用は「過去最大規模の投資」と明かす。同社は開発費を開示していないが100億~500億円規模と見られる。

伊藤忠商事の渡辺一郎CIO補佐兼IT企画部長(左)と五十嵐学IT企画部長代行
伊藤忠商事の渡辺一郎CIO補佐兼IT企画部長(左)と五十嵐学IT企画部長代行
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 インメモリーでデータを処理するS/4HANAを国内総合商社で初めて採用した。HANA採用で新システムは大幅な処理の高速化と、それによる業務の効率化を見込む。例えば、日々の受発注状況や損益管理は、営業部門が入力後「数時間で把握できるようになる」(渡辺氏)。現行システムは夜間バッチで処理するため、把握するのは翌日になることが多かった。

 伊藤忠商事は食品や繊維の取り扱いが多く、他の商社に比べて小口の受発注が大量に発生する傾向にある。渡辺氏は「状況をより細かく把握できるようになり、より利益重視のビジネスを進められるようになる。さらに営業担当者がすぐに翌日のスケジュールを組めることから、働き方の改善にもつながる」と話す。

 決算の関連処理も短期化する見込み。月次の決算処理は1日短縮するほか、税務監査用に四半期ごとに1週間かけて出力していた全社の総勘定元帳など四つの元帳出力の計算処理は「26分に短縮できる」(五十嵐学IT企画部長代行)見込み。元帳出力のために用意していたシステムも不要になるという。

深刻な保守問題を解消

 刷新の理由は「老朽化を解消するため」だったと野際宏至IT企画部全社システム室長は説明する。現行システムで使う「SAP ERP 6.0(ECC6.0)」の保守が2025年に終わることを見据えての刷新だが、それ以上にCOBOLシステムの保守がままならなくなった問題が伊藤忠商事にとって深刻だったようだ。