「スタートアップ企業は、積んだ食料が限られた漂流船。食料が尽きる前に、宝島を見つける必要がある。だから、何よりもサービスを世に出すスピードが大事だ」

 これは、ソラコム代表取締役社長の玉川憲氏が、経済産業省主催のイノベーター育成プログラム「始動 Next Innovator 2016」参加者に贈ったメッセージの1つだ(写真1)。始動プログラムは、イノベーターに必要なスキルとマインドセットの修得を目指す研修プログラムで、2015年に続く開催となる。今年も、100人を超えるイノベーター候補生が参加しており、8月20日に第1回の講演とワークショップが実施された。今年の運営母体は、アクセンチュアとWiLの2社である。

写真1●ソラコムの玉川氏
写真1●ソラコムの玉川氏
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 玉川氏の講演では、「起業家の視点」を理解するものとして、同氏自身の起業の背景や苦労話が語られた。背景としては、米国の大学への留学時にクラウドサービスのAmazon Web Services(AWS)に初めて触れたときの高揚感、その後のAWS在籍時の普及活動、そしてAWSを活用したIoT(Internet of Things)プラットフォームを提供するソラコムの創業に至る一連のエピソードを振り返った。

 ソラコムの創業は、現在同社のCTOを務める安川健太氏と、「AWSは基幹システムを担えるか」とやり取りしたことがきっかけという。玉川氏はすぐさま、仮想の報道発表資料である「リリースノート」を作成、ソラコムの創業を決断した。2015年3月に設立された同社は、2015年9月の製品発表、2016年5月の海外展開発表などを経て今に至る。「1年半で、ここまでできる」と、プログラム参加者にスタートアップ企業ならではのスピード感を伝えた。

「始動流」を取り入れて動いたパナソニック

 玉川氏に続いて登壇したのは、Japan Innovation Network (JIN)の西口尚宏氏(写真2)。JINは、経済産業省の研究会活動をきっかけに組織化された、イノベーション活動を支援する加速支援者(アクセラレーター)である。

写真2●JINの西口氏
写真2●JINの西口氏
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 起業家の視点から講演した玉川氏に対して、西口氏は、成熟企業(スタートアップに対する「グローンアップ」)のイノベーションの起こし方について講演した。その要点は「イノベーションは、経営者の仕事である」であり、現場担当者としては、イノベーション創出活動に経営者を巻き込む必要がある。

 また、新たなビジネスモデルを確立するため、「組織として試行錯誤する環境が整っていないといけない」とも言う。その環境とは、組織や評価制度などを既存事業から切り離した「2階建ての経営」である。

 西口氏の別の視点は、グローバル視点である。ゼネラル・エレクトリック(GE)のジェフ・イメルトCEO(最高経営責任者)と会ったときのエピソードとして、「イメルト氏は、役員会では常に“課題は何か?”と尋ねている」と紹介。シリコンバレーのベンチャーキャピタリスト(VC)も、課題に加えて、「その課題を解決するソリューションとは何か?」「どのようなビジネスモデルで事業化するのか?」を起業家に求める。この思考パターンが、「世界の共通言語」だとした。加えて、今では、非営利の慈善事業と捉えられることが多いCSR(企業の社会的責任)活動が、イノベーション創出活動の一部として融合しているという世界の認識も示された。