米グーグルによるネットワークシステムの設定ミスが引き金になって、NTTコミュニケーションズやKDDIなどのサービスに障害が発生した。独立したネットワークの集合体であるインターネットにおいて、どうしてグーグルの設定ミスが他社に波及したのか。その理由は、インターネットに使われるBGPの仕組みを知るとわかってくる。
インターネットは、インターネットプロバイダーや通信サービス事業者、大学など、数万のネットワークが相互接続された巨大なネットワークである。
グローバルIPアドレスやドメイン名などの資源は、インターネットレジストリが管理するが、個々のネットワークはそれぞれの組織が独立して管理している。インターネットのように、個々のシステムが自律して管理を実行し、全体として機能するシステムを「自律分散システム」という。
対等な関係ならピアリングでつなぐ
ネットワークが相互接続する形態には、「トランジット」と「ピアリング」がある。
トランジットは、接続しているネットワークにパケットを転送してもらう形態。ユーザーのネットワークをインターネットにつなぐプロバイダーにおいては、中小規模のプロバイダーが大規模プロバイダーに接続する場合、この形態になることが多い。
中小規模のプロバイダーと契約するユーザーのパケットは、そのプロバイダーのネットワーク内に宛先がなければ、大規模プロバイダーのネットワークに転送される。大規模プロバイダーでは、宛先に従ってルーティングを行い、パケットを宛先に届ける。トランジットでは、相手に「パケットを転送してもらう」ので、データ量などに応じて費用が発生する。
一方のピアリングは、ネットワークの経路情報を互いにやり取りして、相手のネットワークに宛先があるときだけパケットを転送する接続形態。互いに同程度のデータ量をやり取りするのであれば、費用は通常発生しない。
トランジットは接続しているネットワークに上下関係があり、ピアリングは対等関係になっていると考えるとわかりやすいだろう。
一般的にプロバイダーは、より大手のプロバイダーとトランジット契約を結ぶ。そのプロバイダーは、より大規模なプロバイダーとトランジットで接続している。その階層の最上位にあるプロバイダーは、「Tier1」と呼ばれる。Tier1は、国際的なバックボーンを持つプロバイダーで、世界に数社しかない。
米グーグルは「ハイパージャイアント」
10年ほど前までは、インターネットアクセスの多くはTier1のネットワークを経由していた。ところが近年では、その傾向に大きな変化が見られる。「ハイパージャイアント」が登場したからだ。
ハイパージャイアントとは、米グーグルや米フェイスブックなどの大手コンテンツ事業者や米アカマイ・テクノロジーズのようなインターネットのコンテンツを効率的に配信するCDN事業者を指す。こういったハイパージャイアントに、プロバイダーがピアリングするようになったのだ。
それにより、プロバイダーはトランジットに支払う費用を抑えられる。さらに、コンテンツ事業者などに直接つながっているので、データの遅延を低減できるなど、通信品質を安定しやすくなる。Tier1を経由しないインターネットアクセスは今後も増えると予測される。
インターネットを構成するプロバイダーやコンテンツ事業者の各ネットワークは、通常の企業ネットワークとそれほど変わらない構造を採っている。複数のルーターを使って構築され、ルーティングプロトコルを使って運用している。
多くのプロバイダーではOSPFを採用している。一方、ハイパージャイアントなどは、独自に開発した通信プロトコルを使って運用している場合がある。