後手に回っていた旅行業界のサイバーセキュリティへの取り組みが、情報漏洩事案をきっかけとしてようやく動き出した。2017年度に向け、順守事項などをまとめたガイドラインを策定。サイバー攻撃の情報共有スキームも立ち上げる。一歩前進だが、実効性を保つには大手企業が率先する姿勢が欠かせない。

「旅行業界情報流出事案検討会  中間とりまとめ」など7月28日の「観光庁・旅行業界情報共有会議」で配布された資料
「旅行業界情報流出事案検討会 中間とりまとめ」など7月28日の「観光庁・旅行業界情報共有会議」で配布された資料
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 旅行業界のサイバー攻撃対策は遅れ、監督官庁の観光庁も情報漏洩事案の重要性を認識できていない――。観光庁長官の指示を受け、ジェイティービー(JTB)と札幌通運の情報漏洩事案を調査した有識者委員会「旅行業界情報流出事案検討会」は2016年7月28日に公表した報告書である「中間とりまとめ ~旅行業情報セキュリティ向上のため早急に講ずべき対策~」内でこう喝破した。

 これを受けて観光庁は同日午後2時30分から霞が関ビル(東京・千代田)の一室に旅行業界関係者を集め、6月28日の第1回に続き2回目となる「観光庁・旅行業界情報共有会議」を開催。同報告書の内容を旅行業界に情報共有し、情報管理の徹底と再発防止を呼び掛けることを狙う同会議には、空席が見当たらないほど業界関係者が詰めかけた。

空席なく旅行業界関係者が詰めかけた「第2回 観光庁・旅行業界情報共有会議」の会場
空席なく旅行業界関係者が詰めかけた「第2回 観光庁・旅行業界情報共有会議」の会場
2016年7月28日、霞が関ビル(東京・千代田)
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旅行業界のISAC設立に意欲

観光庁の蝦名邦晴次長
観光庁の蝦名邦晴次長
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 「旅行業は多くの個人情報を有している。インターネットを通じた商取引が増え、サイバーセキュリティの重要性は増すばかりだ。他方で旅行業は他産業に比べて必ずしも(サイバー攻撃の)対策が十分とられていない、遅れがあるという専門家の意見もある」。観光庁の蝦名邦晴次長は、会議冒頭の挨拶を厳しい現状認識で切り出した。

 続けて蝦名次長は、「サイバーセキュリティの問題は直ちに経営問題に直結するという認識を持っていただく必要がある。経営トップを含めて、セキュリティの意識向上に努めてほしい」と述べ、意識改革の必要性を訴えた。

 JTBと札幌通運が2016年6月に相次ぎ情報漏洩に関する事案を公表した(関連記事:JTBの事故対応手順が明らかに、非公開の報告書を読み解く)。観光庁は事態を重く見て、問題点の検証と再発防止策の取りまとめを目的に、6月21日に交通政策審議会会長で情報・システム研究機構国立情報学研究所名誉教授の浅野正一郎氏を委員長とする検討会を設置。検討会は7月8日に第1回の、7月22日に第2回の会合を開き、中間とりまとめを作成した。