「原料米となる山田錦が足りない。ITを活用して農家の不安を解消し、増産を促したい」。日本酒「獺祭(だっさい)」の製造元である旭酒造の桜井博志社長は2014年8月4日、富士通の農業クラウドサービス「Akisai」を利用して、山田錦の安定調達に取り組むと発表した(写真1)。

写真1●旭酒造の桜井博志社長(左)と富士通の廣野充俊執行役員(右)
写真1●旭酒造の桜井博志社長(左)と富士通の廣野充俊執行役員(右)
[画像のクリックで拡大表示]

山田錦の生産量を倍増させる

 国内外での人気の高まりを受け、旭酒造は獺祭の生産能力を順次拡張してきた。しかし、今年に入り山田錦の調達難が拡張計画の足かせになり始めたという。倒伏しやすく安定的に収穫するのが難しいため、山田錦の栽培をためらう農家が増えているためだ。その結果獺祭は、容易に手に入らない「幻の酒」になりつつある。この状況を打破するため、旭酒造は富士通とタッグを組んだ。

 水田にセンサーを設置し、気温や土壌の水分といった情報を1時間ごとに取得してクラウドに送信。定点観測用のカメラも活用し、生育状況を時系列で蓄積していく。

 さらに、Akisaiの「農業生産管理SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)」を活用し、生産者が日々の作業内容などを入力。これらの情報を組み合わせて分析し、最適な栽培手法を導く計画だ。

 こうして得た生産ノウハウや知見を両社が共同で「栽培暦」としてマニュアル化する。栽培実績データや事例集を提供すれば、「新たに山田錦の栽培に乗り出す農家を増やせる」と富士通イノベーションビジネス本部の山崎富弘Akisaiビジネス部シニアディレクターは話す。

 両社は4月から山口県の2生産者にAkisaiを導入し、栽培データの収集を始めた。今後、新潟県や兵庫県などにも拡大し、現在年間30数万俵に止まっている「山田錦の生産量を60万俵にまで増やしたい」と、旭酒造の桜井社長は意気込む。