米グーグル、米航空宇宙局(NASA)、航空機メーカーの米ロッキードマーチン…名だたる企業や組織が相次いで導入した量子コンピュータは、シリコンチップを使った古典的なコンピュータよりも本当に高速なのか。

 近いうちに、この論争に決着が付くかもしれない。この1年、ハードウエア、ソフトウエアの両面で大きな進展があり、量子コンピュータの真の性能を発揮できる条件が揃いつつあるためだ。量子コンピュータをめぐる研究の最前線をレポートする。

量子ビット、ついに1000個を超える

 「量子アニーリング型」と呼ばれるタイプの量子コンピュータを開発するカナダD-Wave Systemsは2015年6月22日、1000個を超える量子ビットの稼働に成功したと発表した(写真1)。1000個超の量子ビットを協調動作させたのは、D-Waveのシステムが世界初となる。

写真1●新チップ「Washington」の外観
写真1●新チップ「Washington」の外観
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 量子ビットとは、量子コンピュータを構成する最小単位の素子のこと。「0」「1」に対応した二つの状態を取り、ときには「0」「1」が重なりあった状態にもなる。

 量子アニーリング型の量子コンピュータは、この量子ビットの結合度を調整することで、組み合わせ最適化問題と呼ばれる数学問題の解を導くことができる。例えば、複数の都市をすべて回る最短の経路を解く「巡回セールスマン問題」は、組み合わせ最適化問題の典型例だ。

 量子コンピュータは、量子ビットの数が多いほど、より大規模な問題を解くことができる。巡回セールスマン問題でいえば、巡回する都市の数をより増やした問題を解けるようになる。D-Waveは今回、従来の約2倍に当たる1152個の量子ビットを集積した新型プロセッサ「Washington」を開発し、1000個以上の量子ビットについて動作を確認した。

グーグル/NASAとロッキードマーチン/USCが成果を競う

 Washingtonプロセッサは現在、二つのD-Waveシステムに導入されているもよう。一つは、米グーグルとNASAが共同運営する「量子人工知能研究所」に設置したシステム。2015年初頭からWashingtonのチューニングを行い、2015年6月までに1000超の量子ビットの動作を確かめた。この成果が、D-Waveによる6月22日のリリースにつながったようだ。

 もう一つはロッキードマーチンが購入し、南カリフォルニア大学(USC)の量子計算センターが運用しているシステムだ。こちらは2015年6月にWashingtonを導入し、現在チューニング中とみられる。

 D-Waveの量子コンピュータを導入した企業や組織は、前述の最適化問題を現実の問題にあてはめることで、量子コンピュータを事業に生かせるかを検証している。例えばNASAは「惑星探査時の遠隔操作ロボットの最適な経路」を、米グーグルは「画像を解析する最適な機械学習アルゴリズム」を、ロッキードマーチンは「航空機向け組み込みソフトウエアに潜むバグを検出する最適なアルゴリズム」を、それぞれ量子コンピュータに解かせようとしている。