日本の会計基準を作成する企業会計基準委員会(ASBJ)は2017年7月20日、企業の売上高に関する会計処理を定める「収益認識基準」の草案を公開した。3500以上ある全上場企業の連結、単体の財務諸表と、会社法で監査が必要になっている企業に対して、新たな考え方に基づいた売上高に関する会計処理を求めている。これまで受託ソフトウエア開発に適用されていた工事進行基準を定めた基準が廃止になるため、ITベンダーの会計処理に影響がある。

 「収益認識基準は企業の売上高を変えるだけでなく、全上場企業に影響する。ASBJが発足した2001年から多くの会計基準を策定してきたが、今回の収益認識基準が、企業に対して最も大きな影響を与える基準になる」とASBJの小賀坂 敦 副委員長は話す。

 日本の会計基準ではこれまで、売上高の計上の時期やタイミングに関する詳細な規定は基本的に存在しなかった。会計処理の考え方を大まかに示した「企業会計原則」などに基づいた処理を行うことで、詳細な処理の決定は企業の任意となっていたためだ。

受託ソフト開発向けの会計基準はなくなる

 収益認識基準が適用になった場合、これまで受託ソフトウエア開発の会計処理に適用となっていた工事進行基準適用を定めていた会計基準が廃止される。そのため受託ソフトウエア開発を手がけているITベンダーは、必ず会計処理を見直すことになる。

 収益認識基準では大きな会計処理の方針として、「財またはサービスを顧客に移転することにより、履行義務を充足した時点で収益を認識する」と定めている。受託ソフトウエア開発を対象にした特別な会計処理を規定した文言の用意はなく、この方針が受託ソフトウエア開発にも適用になる。

図●「収益認識基準」の適用範囲
図●「収益認識基準」の適用範囲
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 現行の受託ソフトウエア開発の売り上げ計上処理は、「工事収益総額、工事原価総額、決算日における進捗度を、信頼性をもって見積もれる」場合に、「工事進行基準を採用する」としている。工事進行基準を採用した場合、プロジェクトの進捗度に従って、売上高と原価を計上することになる。工事進行基準は2009年4月から適用開始となり、大手ITベンダーを中心に受託ソフトウエア開発の会計処理に適用してきた。