財布の中には、タクシー会社や飲食店が発行した領収書がぎっしり。毎月、経費精算のたびにのり付けして経理部門に提出――。多くの企業でおなじみのこんな光景が、徐々に見られなくなるかもしれない。電子帳簿保存法の改正によって、領収書などの電子保存が進みそうだからだ。

 企業などの法人には領収書の保管義務があり、基本的には原本を7年間保存しなければならない。電子データでの保存も可能だが、そのためにはいくつかの条件がある。例えば、対象となるのは3万円未満の領収書のみだ。さらに、国の認定を受けた事業者の電子署名付与も必要だ。

 こうした条件がハードルとなり、現状では電子保存を実施している企業は限られている。文書管理関連製品を手掛ける企業などが集まる日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)の公表資料によれば、税務書類をスキャナーで読み取って保存している企業は、2013年度時点で133社にとどまるという。

 つまりほとんどの企業は、現在でも領収書などの書類を紙で保管/管理している。そのコストは相当な金額に上る。例えば野村ホールディングスやグループ会社の野村證券などでは、1年間で段ボール数百箱分を超える書類を全国の拠点から倉庫に輸送し、保管している。かかる費用は億単位という。

 こうしたことから、企業などからは電子保存の条件緩和に対する要望の声が上がっていた。これに応える形で、2015年度の税制改正で「かなり思い切った規制緩和を実施した」(財務省主税局)。電子帳簿保存法の改正により、2015年10月からは金額の制限がなくなる(写真1)。従来は認められていなかった3万円以上の領収書も、電子保存が可能になる。また、システムのID/パスワードで実施者を特定できれば電子署名も不要になる。

写真1●規制緩和の概要(コンカーの発表資料より)
写真1●規制緩和の概要(コンカーの発表資料より)
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規制緩和は商機、ベンダーの対応進む

 これを受けて、企業では領収書の電子保存が広がる可能性がある。ベンダーからも、対応製品の発表が相次いでいる。OCR(光学文字認識)を用いたデータ検索機能などを用意する製品もある。