写真1●左から、East Venturesの衛藤氏、カーディナルの安武氏
写真1●左から、East Venturesの衛藤氏、カーディナルの安武氏
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写真2●年収に関する調査結果
写真2●年収に関する調査結果
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写真3●保有株に関する調査結果
写真3●保有株に関する調査結果
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写真4●ランチタイムは、同じ関心を持つCTOがテーブルを囲む
写真4●ランチタイムは、同じ関心を持つCTOがテーブルを囲む
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 「ベンチャー企業のCTO(最高技術責任者)の年収はどれほどか」「自社株を保有しているのか」「その保有比率はどれくらいか」。

 ソフトウエア技術者が思わず身を乗り出して聞きたくなるような調査結果の報告があったのは、ベンチャー企業のCTO約100人が集まったイベント「IVS CTO Night & Day 2016 Spring powered by AWS」内の1セッション。同イベントは、5月末に開催された「Infinity Ventures Summit(IVS)2016 Spring Miyazaki」と同じ会場で、IVSを主催するインフィニティ・ベンチャーズLLPとアマゾン ウェブ サービス ジャパンの共催により行われた。ちなみに、同イベントは2014年12月に初めて開催されており(関連記事: ITベンチャーが日本を元気にする)、参加CTOはIVSの一部プログラムにも参加できる。

 今回のセッションでは、カーディナル代表社員である安武弘晃氏と、East Venturesマネージング・パートナーの衛藤バタラ氏がパネリストとして登壇した。安武氏は元楽天CTO、衛藤氏は、元mixi共同創業者兼CTOである(写真1)。2人は、調査結果について、自身の経験などを踏まえてコメントを加えた。

 年収に関する質問では、「3000万円以上」から「0円」までの7個の選択肢が用意された(写真2)。このうち、最も多かったのが「500~800万円」で、全体の32.9%を占めた(回答数は76)。

 この結果に対して安武氏は「(契約に)株が入っていないのなら安い。株もなく、収入もそこそことすると本気で頑張れないのではないか」とした。衛藤氏は投資家視点から「最低ラインは給料として支払い、それ以上は株式発行で補うのがいい」という指針を示した。

 一方で自社株の保有比率については、「保有株なし」が半数以上を占めた(写真3)。このうち4割はストックオプションもない。全株式の10%以上を保有するケースは、全体の16%ほどだ。

 この結果を見た安武氏は、即座に「少なすぎる」と評価した。衛藤氏は、CEO(最高経営責任者)とCTOの保有株のバランスに注目した。「CEOの保有株比率との比較結果が知りたい。両者のバランスが悪いと、経営はうまくいかないことが多い。これはVCが助言すべき問題」とした。この視点には安武氏も同調する。「CEOとCTOが同じように経営にコミットし、一緒にエグジットする、が望ましい」(安武氏)。

 CTOが経営にコミットしているかどうか、については別の調査結果がある。CTOが取締役として経営に参画しているか、あるいは社員なのか、という立場の違いだ。今回の調査結果では、取締役に就いているCTOが35%にとどまった。安武氏は「中には、取締役ではなく、執行役員のCTOがいるかもしれないが、いずれにしてもCTOは経営責任を負ったほうがいい」とする。衛藤氏は投資側視点から「出資する際には、経営陣の中に技術者がいるかどうかを見ている」とした。

 このほか調査では、年齢やCTOとして経験した社数などについても報告された。調査に関する議論の多くが、「CTOの経営への関与の重要性」「ベンチャー企業の健全な事業拡大のためのCTOの待遇向上」に関するものだった。

 このほか、同セッションでは、2人のCTO時代の悩みや当時の課題解決方法などが共有された。例えば安武氏は、データセンターの増設時の経験を振り返り、「経営の観点から正しい選択かどうか、初めて考えるようになった」という。データセンターへの投資金額と従業員への報酬を比較したのがきっかけだ。

 衛藤氏は、新サービスの開発において、人員を増強したときの体験を話した。衛藤氏は「自分がやりたいか」ではなく「プロジェクトを成功させる」という視点に立ち、自分よりも技術が分かる人を積極的に雇い入れたという。自分よりも技術に詳しい人を雇い入れることに対し、CTOとして躊躇(ちゅうちょ)はなかったのか。これに対して衛藤氏は、「CTOは、会社の中で技術に最も詳しい人、ではなく、経営陣の中で最も技術を知っている人、と考えていた」とした。

 この経験から、衛藤氏は、「CTOが“自分が技術を最も分かっている”と言っている会社には投資しない」のだという。これは、CTOの力量以上に企業が発展しないからだ。安武氏も自身が退いたタイミングを振り返り、「楽天がグローバル化を進める段階に入ったときに、その段階にふさわしい人がいると考えた」と同調した。

 ベンチャー企業では、他社の様子や先輩経営者、技術者の話を聞く機会が少ない。IVS CTO Night & Dayでは、多様な講演や同じ関心を持つ人が集まるような仕掛けが施されている(写真4)。こうした議論の場は、参加したCTOにとって貴重な機会になったように映った。

■変更履歴
当初、主催者の社名を「アマゾン データ サービス ジャパン」としていましたが、正しくは「アマゾン ウェブ サービス ジャパン」です。本文は訂正済みです。 [2016/06/18 19:00]