総務省は、NTTの加入電話網(PSTN)が2025年頃に維持限界を迎えることを受け、IP網への円滑な移行に向けた議論を進めている。2017年6月7日開催の有識者会議では事業者間で意見が割れていたマイラインの扱いが議論され、廃止の方針がほぼ固まった。今後は通話区分ごとの登録がなくなり、単純に中継電話事業者だけを選ぶような方式に切り替わる見通しだ。

競合事業者の反発もむなしく

 マイラインは、NTT東西の固定電話を対象とした「電話会社選択サービス」。ユーザーは4桁の事業者識別番号(00XY番号)をダイヤルしなくても、事前に登録した内容に基づき、市内/市外/県外/国際の区分ごとに通話が自動的に中継電話事業者(マイライン事業者)に振り分けられる。NTT東西は移行先のIP網にマイラインの機能を実装すると膨大な費用がかかるため、サービスの廃止を要望していた。

 NTT東西の試算によると、マイライン機能の開発費用は(1)メタル収容装置(既存の加入者交換機を流用)を活用する場合が40億円、(2)IP網上に新たに実装する場合が75億円。さらに運営費用としてそれぞれ年10億円かかり、ユーザー対応を含めると全体の費用(5年累計)は(1)が90億~95億円、(2)が125億~130億円に膨れ上がるという。

マイライン廃止/継続に伴う費用の試算結果
マイライン廃止/継続に伴う費用の試算結果
出所:総務省
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 NTT東西は、代替策としてマイライン事業者向けに通話サービスの卸提供を提案した。マイライン事業者はNTT東西から通話サービスを借り、独自のブランドや料金体系で通話サービスを展開。現在のような通話区分ごとの振り分けをやめ、ユーザーは単純に通話サービスを選ぶというものだ。通話ごとに事業者を識別する機能が不要になるため、開発費用が10億円で済むとしている。方式の大幅な変更に伴い、ユーザー対応の費用が10億~35億円と増えるものの、全体の費用を20億~45億円に抑えられる。

 これに対し、KDDIやソフトバンクは顧客のタッチポイントやサービス競争の環境が失われるなどとしてマイラインの廃止に反対していた。(1)や(2)の実現で継続を主張してきたが、最終的に上記の費用が決め手となり、廃止の方針がほぼ固まった。マイラインの登録数は年々減少(2016年度末は前年度比6.2%減)しており、IP電話は全国一律の通話料にもかかわらず、距離区分ごとの事前登録を奪い合うマイライン競争は時代遅れ。マイラインを維持するために100億円規模を追加投資するのはナンセンスというわけだ。

マイライン登録数の推移
マイライン登録数の推移
出所:総務省
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 それでもKDDIは諦めずに食い下がった。NTT東西の通話サービス卸を通話区分ごとに分けてマイラインを維持する案を6月7日の有識者会議で訴えたが、有識者の賛同を得られなかった。それどころか、「説得力があるとは思えない」「メリットが伝わりにくい」「シンプルなほうが良い」などと次々にダメ出しされて終わった。総務省は6月下旬に報告書案をまとめる予定で最終決定ではないが、マイラインの廃止を覆すのは難しそうな気配だ。