大学や短大などの高等教育において、情報リテラシー教育とどのように向き合い、どう対処していくべきか。東京・有明の教育イベント「New Education Expo 2016」の会場で2016年6月3日、現場で実践している関係者を講師に迎え、「これからの大学に必要な情報リテラシー教育 ~情報活用能力を備えたグローバル人材育成の処方箋~」と題したセミナーが開催された。

 冒頭、モデレーターを務めた日経BP社 教育とICT Onlineの中野淳編集長が、現在の情報リテラシー教育の課題と傾向について解説した。

 中野編集長はまず、情報リテラシーの分野は日々新しい要素が出てくると述べ、大学生活の4年間でも目まぐるしく状況が変化すると説明。社会生活で必要とされる情報リテラシーの例として、パソコンの操作、Officeソフトの利用、プレゼンテーション、情報セキュリティ、情報検索、著作権、メールマナーなどを紹介しながら「非常に多くの要素があり、限られたカリキュラムの中で全てを網羅することはできない。教える内容の取捨選択や、どの内容を深く扱うかが大きな課題となる」と語った。

教育現場で広がる1人1台のパソコン所有

 高等教育機関では、学生が1人1台のパソコンを所有して学習や研究に活用する「パソコン必携化」の動きが広がりつつある。背景として、ハードウエアやソフトウエアのメンテナンスを含むパソコンルームの管理コスト削減が挙げられる。こうした要因に加え、マイクロソフトの教育機関向けOffice包括ライセンス、LMS(Learning Management System)導入なども一般的になり、ICT(情報通信技術)を活用した教育に柔軟に対応していくためには1人1台の体制が望ましいとされる。

 中野編集長は、教育現場での著作権法違反についても警鐘を鳴らした。著作権法第35条の例外規定により、「学校の教員や生徒が授業で利用する場合」には、他人の著作物を許可なしに利用することができる。しかし、著作物を無許可で流用した教材をサーバー上で共有したり、同様の教材を利用した授業を動画で撮影して公開したりといった行為は、著作権法違反となる可能性が高い。「ネットを介した協働学習や反転授業など、ICTを活用した新しい学びの形では、著作者の了解を取っておかないと著作権法に違反する危険性がある」と指摘した。

 このほか、高等学校の教科「情報」は必履修であるものの、学校によって学習の内容やレベルに温度差があり、大学の新入生の情報リテラシーには大きなばらつきがある現状も紹介した。中野編集長によるこうした現状把握に続き、高等教育の現場で情報リテラシー教育に携わっている3名の講師が、事例を交えながら取り組みを紹介した。