通信大手各社が2020年の商用化を目指し開発中の第5世代携帯電話(5G)を巡り、具体的な用途を想定した実証実験のアピール合戦を早くも過熱させている。

 かつて3Gの需要喚起に苦労した経験を糧に、需要の拡大が期待できる法人向け市場の開拓に向け、4Gより大幅に高まった5Gの性能をいち早くアピールして法人需要を取り込む狙いだ。一方、4Gまでと大きく異なる電波特性への対応を検証する必要があることも、実証実験の早期展開の背景にありそうだ。

8K映像配信に建機の遠隔操作、自動運転と実証実験が花盛り

 「高速、大容量で低遅延な5Gの実証実験というだけでなく、パートナー各社と5G時代にどのような新しいサービスを生み出せるかを考えるところに意味がある」。2017年5月22日、東京スカイツリーの展望台に立ったNTTドコモの吉沢和弘社長は、この日スカイツリーに設置したばかりの5G実験局「5Gトライアルサイト」の意義についてこう宣言した。

 ドコモは5Gのパートナー企業の1社である東武鉄道と共同で、スカイツリーや東武沿線に実験局を設置。8K映像をスカイツリー展望台に配信したり特急電車の複数の乗客に4K映像をリアルタイム同時配信したりする。

 実験局は東京・台場や神奈川、栃木、静岡、和歌山の各県にも設置。綜合警備保障と共同で高精細映像を活用した警備強化を実験したり、フジテレビジョンと共同でコンサート会場の来場者に映像を同時配信したりする取り組みを予定している。

 KDDI(au)も負けてはいない。東京・西新宿の自社施設に5Gの実験局を設置し、2017年5月には近隣を走行するバスの複数の乗客に4K映像を配信するというデモを報道陣に公開した。単なる動画配信ではなく、ユーザーの操作に応じて視点が360度回転するもので、任意の向きの映像をその場で生成して5Gで配信するという凝った作りだ。「5Gだからこそ実現できるサービスだ」。同社モバイル技術本部の松永彰シニアディレクターは胸を張る。

KDDIの松永シニアディレクター
KDDIの松永シニアディレクター
[画像のクリックで拡大表示]

 KDDIはこのほか、大林組やNECと共同で建機の遠隔操作による施工の実証実験を始めている。災害復旧などの危険作業を想定したもので、建機に複数台設置した4Kカメラの映像を見つつ、遠隔地から作業員が建機を操作する。NHKとはスタジアムなどで多数の観客に映像をリアルタイム配信する実証実験に着手した。ソフトバンクも東京・台場で、5Gを活用した自動運転などの実証実験を始めている。