総務省は2017年5月31日、携帯電話回線と光回線のセット割引の適正性を巡り、NTTドコモやソフトバンクを調査する方針を明らかにした。携帯電話大手が展開するセット販売は割引額が大きく、競合他社から「同じ土俵での競争は困難」との指摘が相次いだ。NTTドコモやソフトバンクはセット販売の強化で光回線の契約数を急速に伸ばし、総務省は携帯電話市場の“寡占状態”が光回線市場に波及することを危惧している。

割引額の見直しとなればKDDIに追い風

 携帯電話回線と光回線のセット割引を巡っては、KDDI(au)が2012年3月に始めた「auスマートバリュー」で大きく先行。その後、NTT東西が2015年2月に光回線の卸提供「光コラボレーションモデル」(光コラボ)を始め、NTTドコモやソフトバンクも2015年3月に光コラボを活用したセット割引で追随した経緯がある。

 両社がセット販売のアクセルを踏んだ結果、どうなったか。光コラボは様々なプレーヤーが光回線を独自ブランドで展開できる仕組みだが、両社の独壇場となってしまった。光コラボにおける両社の契約数シェアは2016年12月末時点で66.9%。純増数シェアに至っては2016年10~12月期で77.1%に達する。

光コラボ(サービス卸)の契約数シェアの状況
光コラボ(サービス卸)の契約数シェアの状況
出所:総務省
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 こうした結果を招いている要因としてインターネット接続事業者(ISP)が声高に主張するのが、前述したセット販売の割引額である。例えばNTTドコモは「ウルトラシェアパック100」とのセット契約で月3200円(家族当たり)、ソフトバンクは「データ定額 30GB」とのセット契約で月2000円(3年目以降は月1008円、回線ごとに適用、最大10回線まで)といった割引額を提示している(いずれも戸建て向けの場合)。「割引適用後の実質的な料金は適正コストを下回り、競合他社を排除または弱体化させる競争阻害的な設定となっている可能性がある」と指摘した。

 総務省は2015年2月、競合他社の反発が強かった光コラボの提供を認めるに当たり、適正性や公平性、透明性を確保する目的で「NTT東西のFTTHアクセスサービス等の卸電気通信役務に係る電気通信事業法の適用に関するガイドライン」(サービス卸ガイドライン)を策定した。競争阻害的な料金の設定は業務改善命令の対象として禁止しており、懸念が生じた場合は合理的な説明を求めることとなっている。総務省はこれに基づき、携帯電話や光回線の収支状況、割引額の設定方法などを調査する予定である。

 もっとも、総務省は今回、調査の方針を明らかにしただけであり、競争阻害的な料金と判断するかどうかは分からない。NTT東西は光コラボの卸料金を開示していないが、戸建て向けは月3500円、集合住宅向けは月2500円。NTTドコモの割引額が卸料金を上回るのは、集合住宅で「ウルトラシェアパック100」を契約している場合のみだ。そもそもウルトラシェアパックは大家族向けで単価が高いことを踏まえると、競争阻害的とまで言えるかどうかは微妙なところである。かたや単身向けは、割引額を最大で月1100円に抑えている。

NTTドコモがセット割引「ドコモ光パック」で提供する割引額
NTTドコモがセット割引「ドコモ光パック」で提供する割引額
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 一方、ソフトバンクの割引額は回線ごとに適用するため、家族の契約人数で状況が変わってくる。「データ定額 30GB」は回線ごとに月2000円引きのため、家族2人以上の契約で割引額が卸料金を上回ることになる。「データ定額 20GB/5GB」も同1522円引きのため、集合住宅では家族2人以上、戸建てでは家族3人以上の契約で上回る計算だ。家族の契約人数に応じて毎月の支払い総額も増えるため、やはり競争阻害的とまで言えるかどうかは微妙である。

ソフトバンクがセット割引「おうち割 光セット」で提供する割引額
ソフトバンクがセット割引「おうち割 光セット」で提供する割引額
出所:ソフトバンク
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 今回、似たようなセット割引を展開するKDDIは調査の対象外。同社は光コラボを直接的には取り扱っておらず、サービス卸ガイドラインは関係ない。自らリスクを負って設備競争を展開する立場にあり、割引額も提携事業者との共同負担である。仮にNTTドコモとソフトバンクが競争阻害的な料金として割引額の大幅な見直しを余儀なくされれば、KDDIには大きな追い風。それこそ、設備競争を頑張ってきた甲斐があったということになりそうだ。