総務省が2016年4月以降、端末購入補助の適正化を進めた結果、これまでキャッシュバックなどの形で投入されていた販促費が大幅に減り、携帯電話大手3社の営業利益を押し上げた。総務省は販促費の削減分を料金下げに振り向けるとしていたが、物足りない印象だ。

 だが、大手3社の中で唯一、顧客還元を声高にうたっている企業がある。NTTドコモだ。同社は2016年4月以降、決算説明会のたびに新しい顧客還元策を発表。2017年3月期の還元額は累計840億円に達した。多くの消費者にとっては当然の話。むしろ、足りないという評価が多そうだが、投資家からすれば「なぜそこまでして還元するのか」となる。背景には顧客基盤の毀損に対する大きな危機感があり、還元を武器に「マーケットリーダー」として攻めに転じる狙いがある。

今期の営業利益予想に多くの投資家が失望

 NTTドコモはキャッシュバック競争から早々に手を引いたため、2017年3月期の販促費の削減効果は100億円程度。それにもかかわらず、還元額は840億円と他社を大幅に上回る。還元策の投入時期にズレがあるので1年目はこの水準で済んだが、通年ベース(2年目以降)で1500億円規模に相当する。2018年3月期も第1弾(パケットシェア専用のシンプルプランの新設など)で300億円、第2弾以降で数百億円規模の還元を実施するため、2017年3月期と2018年3月期の累計で3000億円規模に膨れ上がる。

NTTドコモが2017年3月期に実施した顧客還元策
NTTドコモが2017年3月期に実施した顧客還元策
出所:NTTドコモ
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 販促費の削減効果が少ないにもかかわらず、還元額をどう捻出していくのか。同社が真っ先に挙げるのはコスト効率化。2016年度は1100億円を削減し、2017年度は新たに900億円の削減を見込む。加えて、月々サポート(端末購入補助)が縮小してきたことも大きい。これまでは月々サポートのマイナス影響が雪だるま式に膨れ上がって業績の足を引っ張っていたが、2017年3月期は「ぎりぎり3桁億円(100億円強)」(取締役常務執行役員の佐藤啓孝・財務部長)のプラス影響に反転した。2018年3月期は「4桁億円に近い」(同)プラス影響が出る。

 なお、NTTドコモは月々サポートを提供しない代わりに毎月の利用料金を1500円引きとする料金プラン「docomo with」を2017年6月1日に始めた。同社はdocomo withによる月々サポートのプラス影響の内訳を明らかにしていないが、当初の対象は「arrows Be F-05J」と「Galaxy Feel SC-04J」の2機種だけ。2018年3月期のプラス影響については、これまで端末販売の粗利を削って月々サポートの拡大を地道に抑えてきた影響のほうが大きいとみられる。

docomo withでは月々サポートを提供しない代わりに毎月の利用料金を1500円引きに
docomo withでは月々サポートを提供しない代わりに毎月の利用料金を1500円引きに
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 こうした“やりくり”はARPU(契約当たり月間平均収入)の見通しにも表れている。2018年3月期のARPU(計画)は音声が前期比100円増の1350円、パケットが同20円増の3010円。なぜか音声ARPUが驚異的に伸びる計画となっているが、月々サポートのプラス影響が大きい。これを除けば、顧客還元でマイナスという。かたやパケットは月々サポートの影響がほとんどない。顧客還元でマイナスとなるが、最終的にはアップセルで20円増に着地させる計画を描く。顧客還元を抑えれば容易に利益成長を図れるが、あえて苦しい道を選んだ。