米マイクロソフトは2017年5月に、開発者向け年次イベントの「Build」を米国で、「de:code」を日本でそれぞれ開催し、新サービスや新機能を多岐にわたって発表した。端末向けプロダクト、オンプレミス(自社所有)環境向けプロダクト、クラウドサービスと戦線を拡大している同社だけに全体像を把握しづらいが、総括すると重点的な強化ポイントが三つ浮かび上がった。それは、AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、データベースの三つだ。なかでもAIについては、PowerPointなどに組み込んで刷新といえる大きな機能強化を実現する。

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 AI活用の狙いの一つは、自社製品やサービスの強化だ。米マイクロソフト コーポレートバイスプレジデント&チーフエバンジェリストのスティーブ・グッゲンハイマー氏はde:codeで、「OfficeやWindowsをAIでリニューアルする」と語った。

米マイクロソフト コーポレートバイスプレジデント&チーフエバンジェリストのスティーブ・グッゲンハイマー氏(左)と、Preferred Networksの西川徹社長
米マイクロソフト コーポレートバイスプレジデント&チーフエバンジェリストのスティーブ・グッゲンハイマー氏(左)と、Preferred Networksの西川徹社長
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 de:codeでは、PowerPointから直接、深層学習(ディープラーニング)を使った翻訳サービスのAPI(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)である「Microsoft Translator」の機能を呼び出すアドオンを紹介。講演者がスペイン語で話す言葉を基に、リアルタイムで日本語や英語の字幕を画面表示するデモを実施した。この機能を使って、スライドのテキストを翻訳して表示することも可能だ。音声・テキストチャットアプリのSkype for Windowsと連携して動作する「Skype翻訳」などでも、Microsoft Translatorを使って音声やテキストを翻訳できる。

 AI強化はユーザー企業に対し、競争力の源泉になる革新的なシステムを開発しやすくなると訴求する狙いもある。コグニティブ(認知)コンピューティングのサービス「Microsoft Cognitive Services」では、画像認識、言語理解、音声認識などの機能をユーザー企業ごとにカスタマイズできるようにした。ユーザー企業は自社の用途に特化したAIアプリケーションを構築しやすくなる。

 グッゲンハイマー氏はAIのクラウドサービスにおいて「パートナーとの連携も進める」と訴えた。de:codeの基調講演で、深層学習分野における、マイクロソフトとPreferred Networks(PFN)との協業について発表。PFNが開発する深層学習フレームワーク「Chainer」を、AzureのIaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)上で展開するテンプレートなどを提供する。

 2017年中にAzureのデータ収集分析サービスと、PFNの深層学習プラットフォーム「Deep Intelligence in-Motion」(DIMo、ダイモ)を組み合わせ、特定のワークロードや業種に向けたソリューションを提供する予定だ。PFNの西川徹社長はAzureとの連携について「エンタープライズ分野のクラウドサービスという点で、性能や機能だけでなくサポート体制などを総合的に判断した」と話す。

 データサイエンス人材の育成も進める。両社が連携し、2017年中に学生、企業内のエンジニア・研究者向けのトレーニングプログラムを提供する。トレーニングプログラムなどを通じて、3年間で5万人の人材を育成する計画だ。