かんぽ生命保険は2017年3月21日から、保険金の支払い審査に日本IBMの人工知能(AI)「Watson」の適用を始めた。約款や医学、法律などの専門知識を持つベテランの査定者でなければ判断できなかった難度の高い査定を、経験の少ない査定者でもWatsonのアドバイスに従って処理できる。1年半に渡り機械学習のパラメータ調整を続けることで、90%以上の精度を実現した。

 かんぽ生命保険がWatsonを使って開発した審査システムの特徴は、保険査定の判断を示すシステムと、査定の判断理由を示すシステムという2段階の機械学習システムを用意したことだ。人間の査定者が納得しやすい形でアドバイスを示せる。システム開発に携わったかんぽ生命保険経営企画部イノベーション推進室の松阪高宏 企画役は、「保険業界の中で、これら2段階の機械学習システムを適用する事例は海外も含めてほとんどない」と自信を示す。

 今回のシステムでは、まず保険金の請求書(診断書など)の情報を読み込んで病名などを抽出し、該当する可能性の高い保険メニューを1段目の機械学習システムに推定させる。

かんぽ生命保険経営企画部イノベーション推進室の松阪高宏 企画役
かんぽ生命保険経営企画部イノベーション推進室の松阪高宏 企画役
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 1段目の機械学習システムによる推定結果だけでは、なぜシステムがその保険メニューを選んだのか、査定者には分からない。そこで、推定した査定結果の判断理由を補足するために2段目の機械学習システムを適用する。1段目のシステムが推定した結果を、請求書データと共に2段目の機械学習システムに入力すると、過去の類似した事例を相関度の高い順番に並べてランキング表示する。査定者はランキング表示から判断理由を把握でき、保険のメニューを最終的に決定する材料に使える。