「三菱ケミカルホールディングスをデジタル先進企業に変える。伝統的な大企業がデジタル化を果たした国内のモデルケースになってみせる」。2017年4月に国内最大の化学メーカーである三菱ケミカルホールディングス初のCDO(最高デジタル責任者)に就任した岩野和生氏はこう意気込む。

 岩野執行役員CDOは、日本IBMで東京基礎研究所の所長やスマーターシティ事業の執行役員などを歴任した。IBM退任後は、科学技術振興機構の上席フェローや、三菱商事のビジネスサービス部門の顧問を務めていた。IT業界のみならず、幅広い人脈を持つ。

写真●三菱ケミカルホールディングスの岩野和生執行役員CDO(最高デジタル責任者)
写真●三菱ケミカルホールディングスの岩野和生執行役員CDO(最高デジタル責任者)
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 こうした岩野氏の経歴を小林喜光取締役会長や越智仁代表執行役社長に買われ、CDOとして招かれた。岩野氏のCDO就任を機に、三菱ケミカルホールディングスはデジタル化に急速に舵を切り始める。まず、大方針となるデジタル化のビジョンの制定した上で推進体制の整備に着手。同時にデジタル変革の手本となる「フラッグシッププロジェクト」を開始した。

 今後はフラッグシッププロジェクトを手掛けた経験を体系化し、「デジタル変革の進め方について、独自の方法論として確立する」(岩野CDO)。

全事業部門を直接訪問し、70件の変革案を得る

 岩野氏が三菱ケミカルホールディングスに入社したのは、CDO着任3カ月前の2017年1月のこと。CDOになるまでの3カ月間、事業部門と主要な工場を訪問した。責任者や現場の担当者に直接ヒアリングし、70件の変革アイデアを抽出した。

 抽出したアイデアは、「実現のしやすさ」「実現した際のインパクト」など複数の観点で評価。優先順位を付けてプロジェクト化した。そのうち、初期に手掛ける数件のプロジェクトについては、「フラッグシッププロジェクト」と名付けた。

 フラッグシッププロジェクトの一例が、生産や研究開発プロセスのデジタル化だ。「生産や研究開発の現場では、原材料の配合の仕方などで人間の勘と経験がものを言う部分が多々ある。そうした部分にAI(人工知能)やテキストマイニングの技術を適用し、人間の判断を助けたり、効率化したりする」(岩野CDO)。