富士通は顧客と共にデジタルビジネスを創る「共創」を新たな事業の柱に成長させようとしている。2017年5月11日に、共創の推進役として富士通が新しく規定するとした職種が、「デジタルイノベーター」だ。

 富士通によれば、デジタルイノベーターの役割は「デジタルビジネスの情報収集」「事業アイデアの創出」「サービスの実装・検証」「事業運営」といった一連の活動を顧客とともに実践すること。2018年3月までに200人、今後3年間で1200人に増やすという。2017年1月に新設したデジタルビジネスの専門組織「デジタルフロントビジネスグループ」に集約する。

 デジタルイノベーターは、SE、営業担当者、ミドルウエアの開発技術者などから職種転換させる。富士通や関連会社から比較的若手の人材を集め、新たにデジタルイノベーターのスキルを身に付けさせる方針だ。

 富士通は過去にも、SEの職種転換策を打ち出したことがある。直近では、2008年ごろから開始した「フィールド・イノベータ(FIer:エフアイヤー)」が記憶に新しい。今回設けるというデジタルイノベーターは何が新しく、既存のSEやフィールド・イノベータとはどう違うのか。

SEとは評価尺度が違う

 まずSEとの違いについて。デジタルイノベーターの役割を聞くと、デジタルビジネス領域を受け持つのSEのことのように思えるが、富士通はその考えを否定する。「SEとは異なる新しい職種だ」とデジタルフロント事業本部長代理の柴崎辰彦氏は言い切る。

 デジタルイノベーターがSEとは違う職種であることを端的に示しているのが、人事制度である。富士通の宮田一雄執行役員常務は「試行錯誤を繰り返す必要があるデジタルイノベーターと、確実性を求められるSEの評価尺度は違う。今後1年間かけて人事部門と協議し、SE向けとは別にデジタルイノベーターのための人事評価制度を作る」という。

富士通の宮田一雄執行役員常務
富士通の宮田一雄執行役員常務
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 デジタルイノベーターのスキルは、SEのスキルと重なる点もあるものの、本質的に異なるのだという。デジタルイノベーターは、顧客から要望をヒアリングするのではなく、デザイン思考やアイデアソンなどの手法を用いて事業アイデアを顧客と共同で考案。仕様を完全に確定してからシステムを構築するのではなく、プロトタイプのシステムを作りながらイメージを膨らませ、徐々に仕様を確定させるアジャイル型の開発スタイルを採る。システムを構築して終わりではなく、まずはベータ版のサービスを提供開始し、ユーザーの声を聞きながら改善することもある。

 ただし、デジタルイノベーターに求められるこうした作業を、1種類のタイプの人材で実行するのは難しい。そこで富士通は、3種類のタイプのデジタルイノベーターを規定した。異なるタイプのデジタルイノベーターがチームを組んで新ビジネス創造を支援する。

 3タイプとは、デジタルビジネスのアイデア創出から事業化までを統括する「プロデューサー」、ビジネスモデルを設計する「デザイナー」、技術を的確に選定し、事業アイデアを素早く実現する「デベロッパー」だ。

デジタルイノベーターに求められるスキル
デジタルイノベーターに求められるスキル
出所:富士通
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 デジタルイノベーターをどうやって育てようとしているのか。一つには顧客の実案件でOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)で育成する。もう一つは富士通が所有する「共創スペース」で開催するアイデアソンやハッカソンといったイベントへの参加を通じて鍛える。例えば、富士通の共創スペース「FUJITSU Knowledge Integration Base PLY」では年間で150回、アイデアソンやワークショップなどのイベントを開催した。イベントを通じ、事業創出を疑似体験させるというわけだ。